EZ-USB

7mのUSBケーブルで20Gbps伝送もマシンビジョンを次世代に導く新コントローラー

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規格の登場以来、飛躍的に転送速度を高めてきたUSB。USB 3.0以降、5Gbps(ギガビット/秒)、10Gbps、20Gbpsと高速化しているが、マシンビジョンなどの産業用途ではそうした高速化の恩恵を受けていない。10Gbps以上に対応できるペリフェラルコントローラーがなく、産業用で必要とされる長いケーブル長を実現できなかったからだ。だがこうした状況は、インフィニオン テクノロジーズが十数年ぶりにリリースした新しいペリフェラルコントローラーによって大きく変わろうとしている。

USBの進化と転送速度

USBの進化と転送速度

USBの進化と転送速度

USBの進化と転送速度

USBの進化と転送速度

USBの進化と転送速度

1996年の登場以来、主にPCと周辺機器の接続を担ってきたUSBのデータ転送速度は飛躍的に高速化してきた。最初の規格であるUSB 1.0では12メガビット/秒(Mbps)だったが、PCの高性能化に伴い大容量データ通信が必要になってくると、短期間で一気に高速化する。2000年に策定されたUSB 2.0は480Mbpsと40倍に跳ね上がった。2008年にリリースされたUSB 3.0では全二重データ転送が採用され、5ギガビット/秒(Gbps)とさらに桁が上がった。2013年のUSB 3.1 Gen 2ではSuperSpeedに10Gbpsが追加され、2022年のUSB4 Version 2.0では80Gbpsに達している。

さらにUSB 3.1では、マシンビジョン用となるUSB3 Visionが策定された。5Gbpsや10Gbpsに高速化したことで、産業用カメラなどの新しい用途が出てきたからだ。転送速度が急速に高速化し、USBの新たなアプリケーションが広がった一方で、課題として浮上したのがUSBケーブルの長さだ。

 USBではそれぞれのバージョンでケーブルの最大長が決められている。高速になるほど短く、USB 2.0では5m、USB 3.2 Gen 2では1mといった具合だ。ただしPC周辺で使うアプリケーションが圧倒的に多いUSBでは、それほど長いケーブルが必要なかったため、信号の品質(シグナルインテグリティ)を維持できる長さであることの方が重要だった。

 だがマシンビジョンに用いるとなると話は変わってくる。工場ライン上に設置したカメラとホストシステムを接続するには数メートル、数十メートルといったケーブル長が必要になるからだ。Infineon Technologies(インフィニオン テクノロジーズ、以下インフィニオン)のJimmy Chou氏は「これまでは数十センチや2mなどでも足りていたが、5mや10m、20mのUSBケーブルを使いたいという市場要求がかなり高まった」と語る。

中でもニーズが高いのが、手頃なパッシブケーブルだ。

 ケーブルはアクティブケーブルとパッシブケーブルの2種類に大別される。アクティブケーブルはその名の通りICやイコライザーなどのアクティブ素子を搭載し、それによって信号を増幅して伝送するものだ。それに対し、パッシブケーブルは信号をそのまま送る。それ故安価で、現在市場で販売されている5m以下のケーブルは、ほとんどがパッシブケーブルだ。一方で、伝送距離が長くなるほど信号が減衰するので、ケーブル長を伸ばしにくいというデメリットがある。

 アクティブケーブルにはさらに数種類に分かれる。アナログ信号の強度を高めて送信するリドライバー、データを受信した後にデータ波形をクロック信号に合わせて再送信するリタイマー、そしてアクティブ光ケーブル(Active Optical Cable:AOC)だ。それぞれ以下のような一長一短がある。

  • リドライバー:構造がシンプルなので安価だが、信号とともにノイズも増幅してしまう可能性があるので、工場のマシンビジョン用で使うのは難しい
  • リタイマー:5Gbps、10Gbpsなどの転送速度を判別するための仕組みが必要になる
  • AOC:理想的な信号を伝送できるが、コストが高い。USBの大きなメリットでもある電力供給ができない

 このように、どのケーブルにも課題はあるが、採用を最も左右するのはコストだとChou氏は述べる。「アクティブケーブルはロジックICなどが搭載されているのでコストが高く、AOCは光ケーブルが必要なのでこちらも高い。さらに、USBの分野ではできるだけ“信号をいじらない”ことが鉄則になっている。信号には手を加えずにシグナルインテグリティを維持したまま伝送できるケーブルが最も理想的だ。そのため産業用途では、価格とシグナルインテグリティの両面から、十分な長さがあるパッシブケーブルが強く求められている」

Infineon Technologies Wired Connectivity SolutionsでDirector of Product Marketingを務めるJimmy Chou

Infineon Technologies Wired Connectivity SolutionsでDirector of Product Marketingを務めるJimmy Chou

Infineon Technologies Wired Connectivity SolutionsでDirector of Product Marketingを務めるJimmy Chou

Infineon Technologies Wired Connectivity SolutionsでDirector of Product Marketingを務めるJimmy Chou

Infineon Technologies Wired Connectivity SolutionsでDirector of Product Marketingを務めるJimmy Chou

Infineon Technologies Wired Connectivity SolutionsでDirector of Product Marketingを務めるJimmy Chou

産業用カメラで使う長いUSBケーブルに関する議論が、これまでほぼ無かった背景にはもう少し理由がある。1つは、ホストシステムと産業用カメラをケーブルで接続するためのデジタルインタフェース技術はUSB以外にも存在することだ。CoaXPress、GigE Visionなど広く普及している規格があり、これらの規格ではケーブル長をUSBよりもはるかに伸長しやすい。

 もう一つが「10Gbpsに対応するインフィニオンのペリフェラルコントローラーがなかったから」(Chou氏)だ。

 インフィニオンは、旧Cypress Semiconductorの時代から、USBペリフェラルコントローラー「EZ-USB」シリーズを手掛けている。ただし、2011年にUSB 3.0に対応する「EZ-USB FX3(以下、FX3)」をリリースして以来、新製品は長らく発表されていなかった。FX3はUSB 3.2 Gen 1(5Gbps)まで対応できるようになっているものの、「USBの転送速度が10Gbps、20Gbpsに高速化していく中、マシンビジョンをはじめとする産業アプリケーションでは、ペリフェラルコントローラーがないために、5Gbpsで止まってしまっていた」とChou氏は述べる。

 ペリフェラルコントローラーをFPGAで代替する手段はあるものの、FPGAはコストが高く設計の難易度も高い。さらに「USBのプロトコルは想像以上に複雑なので、ペリフェラルコントローラーに代わるFPGAを開発するのは容易ではない」とChou氏は強調する。USBは当初から後方互換性を維持している。USB 4.0対応のデバイスが、今でも30年前のUSB 1.0対応デバイスにつながるのだ。これは驚異的だが、その分、他の通信規格に比べてプロトコルが非常に複雑になっている。「ペリフェラルコントローラーのFPGAを開発するには、約30年分のUSBプロトコルを理解して、仕様通りにソフトウェアなどを実装していく必要がある。これは本当に大変な作業だ」(Chou氏)

 こうした理由から、手頃で長いパッシブケーブルを実現するには、10Gbps以上の新しいUSBに対応するペリフェラルコントローラーが不可欠になっていた。

インフィニオンはEZ-USBシリーズを刷新し、2023年以降、相次いで新製品を発表。5Gbps対応の新製品となる「EZ-USB FX5」をはじめ、10Gbps対応の「EZ-USB FX5N/FX10」、20Gbps対応の「EZ-USB FX20」の量産を一気に開始した。

EZ-USBシリーズの新製品

EZ-USBシリーズの新製品

EZ-USBシリーズの新製品

EZ-USBシリーズの新製品

EZ-USBシリーズの新製品

EZ-USBシリーズの新製品

FX5以降の新しいコントローラーでは、PHYを自社でいちから設計した。これにより、長いケーブルでも信号品質の劣化を抑えて送信/受信できるようになっている。

 特徴的なのが「Eye Monitor(アイモニター)」というソフトウェアだ。信号品質(アイパターン)をリアルタイムで確認できるアプリで、FX20などのチップを使ったトランスミッターが送信したデータ/レシーバーが受信したデータをキャプチャし、それをデジタル化してアイパターンに成形する。「当社のペリフェラルコントローラーを実装した評価基板でベンチテストするには十分な機能だ」とChou氏は述べる。

 一般的に信号品質を確認するには高額のオシロスコープやBERT(ビット誤り率試験器)が必要になる。Eye Monitorを使うことで、大規模な投資をしなくても簡易的にアイパターンを確認できるようになり、効率的にトラブルシューティングを行える。「信号品質の劣化にはさまざまな要因がある。Eye Monitorで要因の特定や問題点の切り分けの足掛かりがつかめれば、開発期間の短縮にもつながるだろう」

「Eye Monitor」でアイパターンを表示している様子

「Eye Monitor」でアイパターンを表示している様子

「Eye Monitor」でアイパターンを表示している様子

「Eye Monitor」でアイパターンを表示している様子

「Eye Monitor」でアイパターンを表示している様子

「Eye Monitor」でアイパターンを表示している様子

インフィニオンは、FX20を使い、3~7mのパッシブケーブルでも問題なく伝送できるデモを披露した。まずは、4つのカメラと小型の産業用PCを3mのパッシブケーブルで接続。ミニカーがドリフト走行する様子を撮影し、4K/30fps(フレーム/秒)の映像を、ケーブルを介してモニターに映した。カメラ1つ当たり4Gbps、合計で16Gbpsのスループットで通信していた。5mのケーブルとFX10を使ったデモでは、65fpsの映像を遅延なく転送していた。これは8.5Gbpsに相当する。さらにインフィニオンは、6mや7mのケーブルとFX20を用いて、約20Gbpsのデータ伝送にも成功した。なお2024年には、5mケーブルで最大10Gbpsのデータ伝送を行うデモを披露した。Chou氏は「大きな反響を得た」と振り返る。

4つのカメラを使ったデモの様子

4つのカメラを使ったデモの様子

4つのカメラを使ったデモの様子

4つのカメラを使ったデモの様子

4つのカメラを使ったデモの様子

4つのカメラを使ったデモの様子

インフィニオンの新たなペリフェラルコントローラーの登場で、産業用カメラインタフェースの世界は大きく変わる可能性がある。「これまで、高速なデータ伝送を必要とする主要なアプリケーションはマスストレージくらいしか存在しなかった。だがFX10やFX20の投入で、5m以上の長いパッシブケーブルを産業用カメラで使えるようになれば、マシンビジョンの発展は加速するだろう。他にも新しいアプリケーションが登場する可能性がある」とChou氏は強調する。

 加えて、インフィニオンは2025年12月にスリーエムと新ソリューションを発表した。これは、EZ-USB FX10ペリフェラルコントローラーとスリーエム製のUSB3 Vision対応5mパッシブメタルケーブル「3M 産業用カメラ ケーブル アセンブリ1U30P-TCシリーズ」を組み合わせ、最大10Gbpsのデータ伝送を長距離で実現するものだ。両社の専門技術を融合させることで、信号劣化やノイズの多い産業環境においても安定した高速通信が可能となり、アクティブリピーターや信号増幅器を必要としないシンプルな構成を維持しつつ、USB3 Vision規格に対応する。これにより、製造ラインでのカメラ配置の自由度や導入コストの低減が期待され、自動車、電子機器、食品加工、医薬品など多岐にわたる分野でのマシンビジョンの普及を後押しすることになるだろう。

 新しいEZ-USBシリーズの登場で、産業用途はようやくUSBの高速転送の恩恵を受けられるようになるだろう。インフィニオンのペリフェラルコントローラーは、次世代のUSBアプリケーションを支えていくはずだ。