連載 ミリ波レーダー新時代#1
注目の高まる「60GHzレーダー」とは?

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レーダーがもっと身近に

最近、周波数60GHz(ギガヘルツ)のレーダーシステムが注目されています。レーダーというと、空港の管制塔や大きな船の上でアンテナがぐるぐると回転しているレーダーを思い浮かべるかもしれませんが、実はレーダーは今や身近なシステムに使われるように変わってきています。

レーダーとは、電波を対象物に向けて発射し、その反射波を測定することにより、対象物までの距離や方向、速度を測る技術です。船のレーダーが回転しているのは、周囲360度に存在する物体(ほかの船)を見つけるためなのです。 

回転するアンテナ以外にも、回転しない平面状のアンテナも存在します。このような平面アンテナは、5G(第5世代移動通信システム)などで利用されています。

また、その他の用途でもレーダーがもっと活躍する時代になると考えられています。

例えば自動車です。車体の正面や、前後左右4つの角には周囲の自動車を検出するレーダーシステムが導入され始めています。これにより、通常の可視光カメラでは見えない濃霧や吹雪などの悪天候であっても、前方の物体や4隅近くの物体(走行中なら他の自動車など)を検出できます。

ただし、これら従来のレーダーシステムは使用可能な周波数帯域が100MHz~1GHz程度しかありません。そのため、何かの物体があるという程度の認識はできますが、それが何であるかまではわかりません。

高分解能で物体を検出できる60GHzレーダー

そこで注目されているのが、60GHz帯を使用するレーダー技術です。この60GHzレーダーは、周波数帯域が従来のレーダーよりもずっと広く最大7GHzもあります。日本では周波数57GHz~64GHzの帯域を持つレーダーが認められています。

60GHzのレーダーは、その帯域の広さを活かしてさまざまな点からの反射を検出し解析できるため、検出した物体が人なのか自動車なのかがより判別できるようになります。例えばクルマの後部座席にいる赤ちゃんが毛布に隠れていても、電波は毛布を透過するので、60GHzのレーダーであれば簡単に赤ちゃんが存在することを検出できます。60GHzレーダーがあれば、赤ちゃんをクルマの中から連れ出すことを忘れたりすることはなくなり、熱中症による死亡事故を未然に防ぐことが可能となります。

半導体チップで60GHzの送受信が可能に

実は、この60GHz帯の利用には、近年の半導体技術の進歩が大きく貢献しているのです。

特に、半導体の設計・製造技術の進歩は、低コストで数十GHzのような高い周波数を発生させたり受信させたりすることを可能にしました。

このことは、携帯電話の周波数や、先に実用化されている自動車用のレーダーとも関係しています。

携帯電話の通信速度は、第2世代(2G)のデジタル回線では、数十kbps(キロビット/秒)でした。それが、3Gでは数百kbps、4Gでは数十Mbps(メガビット/秒)、5Gでは数百Mbpsへと高速になってきました。そして、5Gは今後も進化する規格なのです。その最終目標である20Gbps(ギガビット/秒)に向かうにつれて使用する周波数帯域も拡大させる必要があります。このため5Gで使用する周波数は現在のサブ6GHz(3.5GHzあるいは4.5GHz)から28GHz、39GHzへと高周波側に進んでいくことになります。

このように、携帯電話で通信速度を高速化するためには、広帯域の周波数が使用できる数十GHzの電波を扱う技術の実用化を推し進める必要があったのです。

また、自動車用では、前方および周辺センサとして、60GHzより更に高い77GHz/79GHzを使用するレーダーが先に実用化されていました。これらのレーダーが、半導体の技術の発展により、低コストで設計・製造できるようになってきたため、60GHzレーダーへの技術展開が容易になってきたのです。

豊富な応用例 コロナ時代の「非接触化」要望にも

一方で、数十GHzという高周波の利用には難しさも伴います。

電波は、進行方向に障害物が存在していても、それを回り込むように進む性質を持っています。周波数が高いほどこの性質が弱くなり、電波がより直線的に進むようになります。これが直線性と呼ばれる性質です。

30GHz以上の周波数は、波長が10mm以下になりますので、ミリ波と呼ばれています。つまり、ミリ波は非常に直線性が高く、電波を遮る障害物の存在に弱いということになります。しかも、高周波になるほど減衰が大きくなるため到達距離は短くなります。これがミリ波技術を使う場合の難しい所です。

しかし、このミリ波の直線性をうまく利用することで、一定方向にだけ強い電波を放射するアンテナ(指向性アンテナ)を設計しやすくなります。前述の自動車の前方及び周囲をセンシングするためのレーダーには、このような指向性アンテナが用いられています。

ミリ波のレーダーは、防犯カメラとしても利用できます。従来の防犯カメラだと侵入者にカメラの存在がわかってしまいますが、レーダーは壁やプラスチックなどを透過するため、目に見えないところに設置できるので、侵入者に見つけられることはありません。

また、新型コロナ禍において、出来るだけモノに触りたくないという非接触のニーズが高まっています。ミリ波のレーダー技術はここにも利用可能です。身振り手振りなどの細かな動作を認識(ジェスチャー入力)する事ができるためです。例えば、エレベーターのボタンがジェスチャーで操作可能になるのです。

そのほかにも人感センサとしても利用できます。従来の赤外線による人感センサは、遮蔽物があると検出できません。しかしレーダーであれば薄い壁や遮蔽物があっても人や物体を検知できます。さらに、建物への入退場者管理や室内の利用状況などの把握も可能です。

また、レーダーは静止状態にいる人の心臓の鼓動や呼吸さえも検出できるため、ヘルスケア分野への応用も期待されています。

このように60GHzレーダーは、今後多くの用途に利用されて、より身近なものになっていくと期待されています。

[豆知識] 日本での60GHz帯の利用について

実は、レーダーで使用する電波(電磁波)は、放送や通信などにも利用されているため、各国がその用途や使用する周波数を厳しく管理しているのです。

日本では2019年9月9日に、総務省が60GHz(57~64GHzの7GHz)帯に電波利用に関するパブリックコメントの募集を開始しました。2019年10月8日に、その意見を受け60GHz帯を認可するための電波法施行規則の改正作業が開始されました(参考資料1)。同年12月18日に電波監理審議会の意見とパブリックコメントの結果を踏まえ、法律施行へと動き出しました(参考資料2)。これにより、日本でも本格的に60GHz帯の電波が使えるようになりました。

なお、これまでは60GHzという超高周波の電波(電磁波)を発生させる事が技術的に難しかったため、60GHz帯の電波はほとんど使われていませんでした。そのため、7GHzという広い帯域を割り当てることができるのです。

 

参考資料

1.「60GHz帯の周波数の電波を使用する無線設備の高度化に向けた技術的条件」-情報通信審議会からの一部答申-、総務省、2019年10月8日

https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban14_02000401.html

2.「電波法施行規則等の一部を改正する省令案および関係告示の改正・制定案に対する意見募集の結果および電波監理審議会からの答申」、総務省、2019年12月18日

https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban14_02000001_00001.html