レーダーの歴史
レーダーが今後どのように発展するかを知るために、簡単に歴史を振り返ってみましょう。1920~40年頃にレーダーが研究されたのは敵機を見つけるため、つまり軍事的な目的のためであり、第2次世界大戦中に欧米で実用化されました。現在のレーダーはシリコンのCMOS技術で作られていますが、当時はマグネトロンという磁石を備えた真空管が用いられ、マイクロ波と呼ばれる100MHz~1GHzの周波数での発振を利用しました。
電磁波はその性質上、周波数が高いほど、指向性を持たせやすくなる(連載1参照)ため、敵機の発見には有力な手段でした。すなわち、空に向けてマイクロ波を飛ばし、敵機がいればそこでマイクロ波が反射されて、戻ってくることで敵機の存在を確認できたのです。
もちろん、現在は半導体技術が発展し、大きなマグネトロンを使わなくても小さな半導体デバイスでレーダー機能を実現できるようになりました。面白いことに、戦後生まれた半導体トランジスタ技術の発展がレーダーを軍事用から低コストの民間利用へと変えたのです。半導体を使ったレーダーでも当初はGaAs(ガリウムひ素)という特殊な半導体を使わなければ高周波を発生できませんでした。しかし、ムーアの法則と共に微細化技術が発展し、やがてGaAsからSiGe(シリコン・ゲルマニウム)半導体へとより低コストの材料へ移行し、この数年でシリコンのCMOS技術を使ってレーダー発振器ができるようになりました。
【豆知識】
半導体自体も、海軍の船に搭載される真空管の寿命が短く、絶えず交換しなければならなかったために、固体の増幅器が欲しいという目的、つまり軍事目的で発明されたのです。また、マグネトロンは半導体の発明によりレーダーに使われることはなくなりましたが、電子レンジの中核技術として現在も利用されています。
ミリ波レーダーは車載がけん引
そして今やレーダー技術は、自動運転を補助するADAS(先進ドライバー支援システム)技術に使われるようになってきました。かつてのマイクロ波からミリ波を呼ばれる30GHz以上の周波数帯を利用します。ただ、現在、クルマ用で使われている24GHzは厳密には準ミリ波ですが、その波長は12.5mm程度であるためミリ波の仲間に入れることも多いようです。
ミリ波レーダーの市場は、2019年で4608億円、20年は新型コロナの影響で3489億円と下がったものの、23年には7300億円、25年には8505億円に成長する、と矢野経済研究所は予測しています(図1)。
ミリ波レーダーはADAS向けには77GHzあるいは79GHz、24GHzが主流ですが、それぞれ役割が異なります。クルマのフロントから前方の物体(クルマ)を検出するに77GHzレーダーが使われ、クルマの前後左右の四隅に近づく別のクルマを検出するのは24GHzレーダーが使われています。最近、79GHz帯については4GHz幅という広帯域の利用が各国で認められるようになってきました。すなわち77~81GHz帯で、イメージングにも使える準備が出来つつあります。
この連載の第1回目と2回目で解説してきた60GHzレーダーはさらに新しい周波数帯であり、7GHzという最も広い帯域を利用できるようになるため、連載2で見てきたような応用が可能になりつつあります。
カメラと比べた利点
60GHzあるいは79GHzの広帯域ミリ波レーダーはカメラと比べて解像度はそれほど高くはなく、ぼんやりした画像しか提供できません。しかし、逆に言えばプライバシーを気にすることなく使える「ぼんやりカメラ」となり、人流の数を数えることや、遠く離れた実家で暮らす父母の様子(倒れたり動かなかったりするような異常がないか)を見守ることなどへの応用ができます。
また、広帯域レーダーに限定しませんが、車載用途ではカメラは、あくまでも人間の目で見る範囲しか物体を見られないため、濃霧や吹雪などの日には用をなしません。この点、レーダーは電波を飛ばし、その反射波を見るため、視界ゼロでも100メートル先でも検出できます。
このためカメラとミリ波レーダーは互いに補完関係にあり、共にクルマの安全性を高め自動運転のセンサとなることができます。自動車メーカーはコストとの兼ね合いを考えるものの、安全性が最優先であり、ミリ波レーダーはカメラと同様に必要な技術なのです。
今後は6G通信にも広がる可能性
ミリ波レーダー技術は今後、第2世代の5G通信にも使われるようになるでしょう。現在はサブロクと言われる6GHz以下の周波数帯で多くの通信が行われていますが、これだけではデータ速度は上がりません。5G通信の規格は最終的にダウンリンク20Gbps、アップリンク10Gbpsという超高速通信を目指しています。現在はまだそこまで達していませんが、このデータ速度の目標に近づけるため、さらに周波数を上げる検討が始まっています。
今は28GHzのミリ波帯が5Gの一部の通信で使われていますが、やがて39GHz、さらには60GHz~80GHzの利用が期待されています。高周波で帯域を広げれば広げるほどデータ速度が上がるからです。
5Gの次の6Gあるいは「Beyond 5G」と呼ばれる5Gの次の通信にはミリ波技術がカギを握ることになります。6Gでは広い帯域さえ確保できれば、画像を描くイメージング応用も可能になります。移動体通信は、4Gまで携帯電話だけの規格でしたが、5GからはIoTをはじめさまざまなデバイスともつながるようになります。同じように、将来のミリ波の応用先は、これまでの通信に加えてイメージングも加わることになりそうです。ここでは60GHzの広帯域レーダーが中核技術となる可能性は十分にあるのです。5Gではサブ6GHz技術が中核になるように、60GHzよりもっと高い300GHz以上のテラヘルツ波が最先端では使われ60GHzと補うようになる可能性があるからです。
ここまで見てきた車載や6Gといったアプリケーション以外にも、空中で衝突しないドローンやぶつからないロボット、2030年代に期待されている「空飛ぶ車」などの分野においてもレーダーは欠かせない技術になります。レーダー技術の応用はこれから先、ますます広がっていくことになるでしょう。