IoTにおけるWi-Fi 6の優位性

発行日: 2021年11月8日

著者: インフィニオン、テクノロジー担当副社長、ローマン ベーカー (Roman Baker)

前回の記事「IoT製品におけるWi-Fi規格の留意点」では、IoT製品の設計において重要な検討事項には、信頼性、通信距離、混雑度、Wi-Fiルーターへの新規格の採用、コスト、セキュリティ、消費電力などがあることを紹介しました。  

本稿では、Wi-Fi 6とWi-Fi 6Eが新しいIoT製品の設計にもたらす具体的なメリットについて、より詳しく説明します。

Wi-Fi開発者は、IoTの観点から、すべてのWi-Fi接続デバイスにとって高速化が必ずしも最善の選択ではないことを認識しています。Wi-Fi 6より前の世代では、スループット自体を向上させることが第一の目的でした。現在は、いくつかの主要性能指数 (KPI) 間のトレードオフをとることで、システム設計において重要な側面に焦点を当てる柔軟性を持たせることが求められます。下図はWi-Fi 6規格の主要機能を示しています。Power Save (省電力化) の欄には1つの項目しかありませんが、他の欄の機能も同様に省電力化に変更することができます。

Key Features of Wi-Fi 6 include power saving aspects.
Figure 1: Key Features of Wi-Fi 6 include power saving aspects.

消費電力の削減/IoT機器のバッテリー寿命の向上

Wi-Fi 6には、OFDMA (直交周波数分割多重アクセス)、TWT (Target Wake Time)、MU MIMO (Multi-user Multiple-input Multiple-output) などの効率最適化、スループット向上、消費電力削減のための技術が含まれます。

OFDMAでは、20/40/80 (Wi-Fi 6Eでは160も) MHzのチャネルをリソース ユニット (RU) に分割し、さらにサブキャリアに分割します。80 MHzは消費電力の増加と引き換えに達成されるため、Wi-Fi 6の20 MHzモードは省電力を実現します。これは、高電力効率で少量のデータを送信するだけでよいIoTデバイスにとって重要です。たとえば、ドアロックは、正しいキーパッドの入力が行われたことを送信するだけでよいのです。このような信号伝送に最適な20 MHzモードは、IoTアプリケーションにおいてWi-Fi 6のWi-Fi 5からの差別化要素のひとつです。

TWTでは、アクセス ポイント (AP) とステーション デバイスは、ステーション デバイスが起きていてAPからトラフィックICを受信する準備ができる特定の時間をネゴシエートします。この機能により、ステーションは前世代のWi-Fiよりもはるかに長くスリープ状態を維持することができ、デバイス全体の消費電力を削減することができます。  

これまでIoTデバイスは、アクセス ポイントが指定する一定の間隔 (多くの場合300 ms) で起動し、トラフィックがあるかどうかを確認する必要がありました。たとえば窓のセンサーは、壊れない限り新しいデータを提供することはほとんどありません。TWTを使えば、センサーはネットワークに対してたとえば3分ごとにウェークして入力を提供するという風にすることができます。それ以外はスリープ状態にし、データを送信せず電力を節約することができます。アクセス ポイントは、情報を受信しないことを知りながらもデバイスが存在することを認識し、あらかじめ決められた時間にデバイスと通信を行います。この機能により、デバイスはより長くスリープ状態を維持してかなりの電力を節約でき、バッテリーがより長持ちするようになります。 

スリープ時間は通常、指定されたバッテリー寿命とユーザー エクスペリエンスの向上を図るよう、システム設計者が決定します。ウェイクアップ時間や送信するデータ量、送信頻度から、特定のバッテリー タイプに最適なスリープ時間を極めて正確に計算することができます。このような設計の柔軟性は、マーケティング担当者やデザイナーに次世代製品の新しい選択肢を提供し、最新のWi-Fi 6を使用する利点のひとつとなっています。

IoTプロダクト マネージャーのためのWi-Fi 6/6Eガイド - ホワイトペーパー

このホワイトペーパーでは、コネクテッド プロダクトを設計するIoTプロダクト マネージャーやエンジニアのために、Wi-Fi規格に関する主な検討事項を記載しています。プロダクト マネージャーは、新製品を開発するたびに、どのバージョンのWi-Fiを使うべきかを決定しなければなりません。Wi-Fi 4または5、6をいつ採用すべきでしょうか。本書では、信頼性や通信距離/混雑度、Wi-Fiルーターにおける新規格の採用、コスト、セキュリティ、消費電力など、IoT製品において考慮すべき主要な項目を横断的に解説しています。詳しくは以下よりアクセスしてください。 

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Wi-Fiセキュリティ

IoTのもうひとつの側面として、セキュリティへの重要性が高まっています。特に、社会的な違反の発生や監視カメラなどIoTデバイスがハッキングされるなどの問題を避けるため、セキュリティの重要性は高まっています。Wi-Fi 6では、これまでWi-Fi向けに開発されてきた最新のセキュリティ機能がすべて組み込まれ、また搭載が義務化されています。たとえば、Wi-Fi Protected Access (WPA) は、WPA2の脆弱性に対応するようWi-Fi 6の最新セキュリティを組み込みWPA3へと進化しました。セキュリティは非常に重要であるため、Wi-Fi 5など一部の古い技術においてもWPA3準拠とすることを必須としています。

Wi-Fiリンク自体のセキュリティは、IoTデバイスの防御の最初の線に過ぎません。インフィニオンが提供するSoC (System on Chip) 製品やスタンドアロンWi-Fiデバイスは、真にセキュアなIoT製品の実現に不可欠な機能を豊富に備えています。そのひとつが、Wi-Fiチップ内で動作するファームウェア (FW) の真正性を検証する機能です。

現在、ほとんどのCPUおよびMCUはRoT (Root-of-Trust) とトップレベルのシステム イメージを認証する機能を備えていますが、インフィニオンは、デバイス内の個々のサブシステムがさらなる防御層を提供することも同様に重要であると考えています。この哲学は「深層防護」と呼ばれ、その結果、システムの安全性が大幅に向上します。Wi-Fiチップセット ファームウェアの検証にはハードウェアのRoTが関与し、そこに送信されるあらゆる イメージの署名を検証します。Wi-Fiファームウェアの検証は、ホスト システムが侵害された場合でも、イメージ自体が本物であることを確認するために重要です。ファームウェアの信頼性が確認されると、Wi-Fiデバイスはデータ転送を実行するためのSecure Digital Input Output (SDIO) インターフェース上での十分なアクセスのみを許可し、チップ上のメモリやその他のリソースを変更または改ざんしないようにコンフィギュレーションされます。アクセス制御を制限するWi-Fiデバイス上の特定ハードウェアが、ハッカーがチップやシステムに侵害できないよう防御します。 

Wi-Fi 6とWi-Fi 6Eの性能

Wi-Fi 5から導入されたMU-MIMOにより、Wi-Fi 6では複数のクライアントに同時にデータを伝送することができ、ネットワークの効率を向上させることができます。MU-MIMOで使用されるビーム フォーミング技術により、アンテナは特定デバイスへ無線信号を送信します。これにより、データ転送速度の向上と干渉の低減が可能になります。

 Wi-Fi 6は、Wi-Fi 2、3、4、5との後方互換性を備えています。しかし、古いバージョンで使用されていた2.4 GHzと5 GHzの周波数帯はかなり混雑しています。この混雑はIoTデバイスのデータ伝送能力に影響を及ぼします。また、Wi-Fi 6以前のデバイスが存在すると、Wi-Fi 6の省電力機能を最大限に活用することができなくなる可能性があります。5 GHz帯で動作していたレガシー デバイスをサポートすることで、Wi-Fi 6の潜在的な利点がすべて実現されない可能性があるわけです。

 Wi-Fi 6Eでは、6 GHz帯での動作が追加されます。この帯域では前世代のWi-Fiデバイスは動作しないため、メディアへのアクセスはより高速になります。その結果、2.4 GHz帯や5 GHz帯と比較して通信効率が大幅に向上し、IoTデバイスの総合的な電力効率が高くなります。

インフィニオンのIoT向けWi-Fi 6ソリューションは、ユーザーがWi-Fi 6のメリットを十分に享受できるようすべてのデバイスが6 GHz帯をサポートします。インフィニオン デバイスは3つの帯域すべてをサポートしますが、6 GHzモードでは、最適なパフォーマンスを実現するようWi-Fi 6でのみ通信を行います。このグリーンフィールドの6 GHz帯により、Wi-Fi 6Eはネットワーク効率と消費電力においてそのポテンシャルを最大限に発揮し、未来というエキサイティングな目的地に向かう旅の第一歩を踏み出すことができます。