インフィニオンが電子回路と繊維生地を融合したウェアラブル・エレクトロニクス技術を発表

2002/07/19 | マーケットニュース

世界的半導体メーカーの独インフィニオンテクノロジーズ(本社:ミュンヘン)は、エレクトロニクス機能を衣料と一体化させ、ア パレル全体を一つの電子機器として創造する新技術「ウェアラブル・エレクトロニクス」を開発し、本技術を応用したソリューション第一弾としてオーディオモジュールのプロトタイプ「洗えるMP3プレイヤー」と 共に発表しました。

「ウェアラブル・エレクトロニクス」技術は、きわめて低消費電力の高集積チップと微小なセンサを特殊な「パッケージ」に封入し、繊維生地にはめ込む一方で、微細な導電性素材を繊維生地に織り込み、衣 類全体を電気の通り道にするという仕組みです。これによりアパレル生地内部にじかに電子コンポーネント機能を集積した「電子機器衣料」が可能となるのです。なおかつ、耐久性、着用時の快適性をも追求した当技術は、 5月13日にフランクフルトで開かれたハイテク・アパレルの国際イベント「Avantex」において、2つのイノベーション賞を授与されています。

今回発表したプロトタイプ「洗えるMP3プレイヤー」は、一般の衣料や装身具への最新エレクトロニクス機能の集積が可能であることを実証するため、イ ンフィニオンの研究グループが繊維衣料業界のパートナーと開発したものです。この技術は繊維衣料業界に新たな市場を開拓し、その将来的な用途や分野は非常に広範にわたり、今後拡大する可能性を秘めています。パ ーソナルな娯楽やゲームはもちろん、通信(携帯電話、GPS測位、Bluetooth)から、商業ロジスティック(物流、製品鑑別、偽造品防止)、医療(診断、生命維持)、セ キュリティ(生体認証センサ)にいたるまで、さまざまな興味深い応用が考えられます。この革新的なチップ設計および集積技術は、インフィニオンの技術の先駆性をあらためて印象づけるものです。

繊維生地に織り込まれたMP3プレイヤー
インフィニオンの研究チームが今回紹介するウェアラブル・エレクトロニクス技術の実用的用途は、ボイスコントロール式の「洗えるMP3プレイヤー」です。M P3プレイヤーのエレクトロニクス機能を衣類の生地内部にじかに集積し、洗濯時にもその機能が損傷しないよう、パッケージ化して耐久性を持たせることに成功しました。オーディオ機能を確実に発揮する点はもとより、 丈夫で、かつテキスタイルに適したデザインを工夫することに細心の注意がはらわれました。このデバイスは、エレクトロニクスと生地の組み合わせ構造によって着心地のよさが損なわれることなく、簡 単かつ便利に使用でき、しかも、エレクトロニクス部分を取り外さなくても衣類をそのまま洗濯できるように設計されています。また、実際の服飾デザインはミュンヘンのドイツ・モード・マ スタースクール(Deutsche Meisterschule fuer Mode)の若きデザイナーたちの手によるものです。

このシステムの設計コンセプトは、4つのユニットで構成されています。1)オーディオ・モジュール(マイクロコントローラ/サウンド処理用チップ)、2 )取り外し可能なバッテリ/マルチメディアカード(MMC)モジュール、3)イヤフォン/マイクロフォン、4)柔軟性のあるセンサ・キーボードの4ユニットです。これらはすべて、導 電体の埋め込まれた生地ストリップ(細片)を介して電気的につながっています。1)のチップは、マイクやイヤフォン、メモリ、キーボード、ディスプレイ、センサおよびアクチュエータと直接に接続できます。さらに、 オーディオ・モジュールの運転モードを決めるソフトウェアが組み込まれており、MP3プレイヤー、スピーカから独立した音声認識、テキスト/スピーチ変換、ミュージック・シンセサイザなど、さ まざまなアプリケーションを楽しめます。このオーディオ・モジュールのサイズはわずか25mm×25mm×3mmです。

バッテリ/MMCモジュール部分(重さは約50g)には数時間連続使用可能なリチウムイオン・ポリマー・バッテリが内蔵されており、シンプルなコネクタを用いて衣類に装着されます。M MCは64Mバイトのデジタル・オーディオ・データ記憶容量を持っています。モジュールの取り外しやPCからのデータ転送は簡単に行えます。MMCはまた、デジタルカメラ、PDA(携帯情報端末)、携 帯電話などとも併用できます。

フラット・キーボードは、導電性の生地ストリップにメタル加工フィルムを貼り付けたものです。メタルフィルムの貼付は、衣料業界で普通に用いられている接着剤で行います。微小なセンサ・モ ジュールがメタルフィルムとつながれており、キーパッドが「押される」とその信号が記録されます。イヤフォン/マイクロフォン・セットも、生 地ストリップを介してオーディオモジュール全体と電気的につながっています。

さらに、全機能を日常生活で使えるようにするためには、テキスタイルとエレクトロニクスを結びつける構造をどう工夫するかが肝心なポイントです。その場合、基本的問題点として、チップはμm( 1000分の1 mm)、衣料はmmというように、構造の尺度が異なることがあげられます。この問題に対処するため、インフィニオンは異なる2つの方法を開発しました。一つは、ワイヤボンディングと同様の方法で、 導電性の生地ストリップとチップ・モジュールをつなぐ方法です。もう一つは、(フレキシブル回路基板に類似した)柔軟性のあるプラスチック・フィルムを用い、それを適当な接合パッドにより、繊 維構造にセメント接合またはハンダ付けする方法です。両方法とも、モジュールと接合部分は密封しておきます。

革新的な体温発電機<サーモジェネレータ>の開発
「電子機器集積衣料」に利便性の高いエレクトロニクス集積を実現するうえで重要なのは、きわめて低い消費電力、洗練されたパワーマネジメントおよび革新的な電源です。それらの要件を踏まえ、イ ンフィニオンが開発したのが、人間の体温を利用して電子デバイス用の発電を行うサーモジェネレータです。この取り組みでは、バッテリが不要な衣料向けアプリケーションへの適用を最終目標に置いています。

このミニ・サーモジェネレータは、人体の表面と着衣の間で生じる温度差を利用して発電するものです。この原理はすでに、宇宙技術など特殊な分野で実用化されています。新しい熱電素材、チ ップの消費電力低下、生産コスト低減によって、その広範な用途が切り拓かれつつあります。

インフィニオンが開発したのは新しいシリコン・ベースのサーモジェネレータで、1平方センチあたり数マイクロワットの電気出力が可能です。当社の調べでは、周囲の環境条件が適度な時、着 衣と皮膚表面の間の温度差は最低5℃あり、その環境下では、新開発のサーモジェネレータ・チップは1平方センチあたり数マイクロワットの発電を行って、電圧負荷1平方センチあたり数5Vをつくり出せます。こ の数値は、特殊な医療センサやマイクロエレクトロニクス用チップの電源としては十分です。また、「ウェアラブル・エレクトロニクス」は工夫次第で、脈拍や心拍数、体温のモニタに応用して、読 み取ったデータを無線で送ってウォッチ表示部に映し出すことも可能です。補聴器用としても有望で、比較的高価なバッテリ・コストの低減につながります。

今後の応用分野の展望
半導体業界のなかでも、インフィニオンは独特で広範な製品ラインナップを有しています。それをもとに、当社は「ウェアラブル・エレクトロニクス」の多様なアプローチを展開できる万全な立場にあります。

電子ラベルでブランド商品を保護
インフィニオンは、今回ウェアラブル・テクノロジーズの一環として、さまざまな情報を記憶できる微小なマイクロチップで構成される「スマート・テキスタイル・ラベル」も開発しています。これは、自 社製品であるIDタグIC「my-d」を特殊なパッケージに収納して、生地に貼り付け「情報ラベル」として使用できるものです。「スマート・テキスタイル・ラベル」は、内 蔵アンテナにより読み取り側との無線データ交換ができ、別途の電源は不要です。実現可能な用途としては、作業着を洗う大型の洗濯設備やそれらを貸し出すレンタル業者向けが考えられます。ロジスティック向けでは、倉 庫業務を簡素化できる物流管理があげられます。又、世界中で横行するブランド商品の偽造品防止策として、「情報ラベル」に偽造品鑑識用の機能やコードを記憶させる手法が考えられます。それ以外に、洗 濯機などへの利用もあと一歩です。生地の取り扱い情報を蓄積したチップを洗濯物に取り付けることで、洗濯機が洗濯物の最適な洗濯プログラムを認識して選ぶという方式です。白 い衣類が他の洗濯物の色に染まってしまうなどの苦い経験は、過去のものとなるでしょう。

保健や介護向けの有意義な適用
高齢者や病人の介護向けソリューションもあります。前述したサーモジェネレータは、現時点では消費電力が微量なチップシステムに用途が限られていますが、将来の用途としては有望であり、例 えば保健への応用が考えられます。衣類に装着したセンサで体内の生命維持機能を測定、そのデータを外部のトランスミッタに伝えて、担 当外科医やオペレーションセンターが特殊なケアを必要とする人を遠隔モニタするという仕組みです。これによって、異常が発生したときの対応が迅速になり、時を得た介入により人命を救うことができます。

インフィニオンについて

インフィニオンテクノロジーズ(Infineon Technologies AG)は、ドイツのミュンヘンに本社を置き、自 動車および産業分野や有線通信市場のアプリケーションへ向けた半導体およびシステムソリューション、セキュア・モバイル・ソリューション、メモリ製品などを供給しています。米国ではカリフォルニア州サンノゼ、ア ジア太平洋地域ではシンガポール、そして日本では東京を拠点として活動しています。2003会計年度(9月決算)の売上高は61億5,000万ユーロ、2003年9月末の従業員数は約32,300名でした。イ ンフィニオンは、フランクフルトとニューヨークの証券取引所に株式上場されています。

Information Number

INFJP200207.005