インフィニオンがムーアの法則を飛び越える仮想マイクロコントローラ技術を発表

2002/11/04 | マーケットニュース

独インフィニオンテクノロジーズは、組込み型プロセッサの大幅な性能向上をもたらすチップ設計技術を発表しました。組込み型プロセッサは、携帯電話、PDA(携帯情報端末)、コンピュータ周辺機器、自 動車用エレクトロニクス、その他の日常電子製品に中枢チップとして広く使用されています。チップアーキテクチャにおけるこの革新技術は、「MyVP(My Virtual Processor)」技術と呼ばれ、シ ステム設計者に対して、ムーアの法則の限界を飛び越えて、プロセッサの効率を最大10倍まで高めることを可能にします。

ムーアの法則として引き合いに出されるチップ性能の典型的な進化プロセスでは、トランジスタのチップサイズの縮小にともなって、演算能力が向上します。これに対し、インフィニオンの「MyVP」技 術は、組込み型プロセッサの動作方法を変えることにより劇的な性能向上を達成するものであり、生産技術の変化なしに性能の飛躍的向上をはかれます。

「MyVP」技術によって、動作効率が大幅に向上した高速プロセッサを設計できます。その結果、自動車を例にとると、エンジン性能、排ガス抑制、燃費性などが改善されるほか、安 全機能や快適性機能に対するコストも下がり、そうした機能を大衆車にも採用しやすくなります。また、携帯電話の設計においては、次世代ネットワークの双方向マルチメディア機能やインターネット・ア クセス機能を付加して、なおかつ、バッテリ寿命がさらに長く、低コストの製品を作ることが可能となります。「MyVP」のマルチスレッド技術によってさらに、新しいタイプの「常時オン」ネ ットワーク機器や廉価なパーソナル娯楽機器も設計できるようになります。

インフィニオンのゼンケ・メアガルト(最高技術責任者=CTO)は、「エンベデッド゙技術は、あらゆる電子製品に用いられています。これらの製品に内蔵されているプロセッサやDSP( デジタル信号プロセッサ)チップの動作方法が改善されると、人々のライフスタイルに直接的な影響をもたらします。インフィニオンのMyVP技術は、人々の暮らし、仕事、娯 楽の向上を目指した斬新なエンベデッド製品を当社および顧客企業が開発していくうえで鍵となる、重要な新技術です」と、語りました。

一連の技術革新が「MyVP」技術の土台になっています。これによって、高性能コンピュータシステム向けに開発されたマルチスレッド技術( =プログラムをスプレッドと呼ぶ実行単位に分割して並列実行する方式)を、組込み型プロセッサやDSPに適用し、同時に、エンベデッド・システムに必要とされるリアルタイムな決定論( デターミニズム=前もって決められた結果が出ること)を維持ないし改善することが可能となりました。インフィニオンは、「MyVP」技術を適用した最初の製品として、32ビット・マ イクロコントローラを2003年半ばに発表する予定です。インフィニオンはまた、「MyVP」技術を他のチップ設計会社にも積極的にライセンス供与して、この技術の幅広い普及をはかる計画です。

メモリにまつわる問題の解決
インフィニオンのロベルト・オベル(マイクロプロセッサ・アーキテクチャ担当ディレクタ)は、「クロック速度の絶え間ない向上は、ムーアの法則が持つ効果の一つです。そして、ク ロック速度ないしメガヘルツは、性能評価の一般的尺度として広く知られるようになりました。しかし、プロセッサは、メモリを超えるスピードで走ることはありません。したがって、プロセッサを高速化しても、動 作速度がその10分の1のプログラムメモリを使用するのでは、メリットはありません。MyVP技術は、ずっと悪化をたどっているこの性能問題の解決を支援し、複雑なメモリ・サ ブシステムの高コスト問題を解決する手段を創出します。これにより、性能の大幅な向上とコスト低減がもたらされます」と、語りました。

コストが重要課題であるエンベデッド・システムにおいて、動作周波数400MHzのプロセッサと40MHzの安価な外付けフラッシュメモリを組み合わせたシステムの場合、1 0倍の性能向上が見込まれます。従来では、プロセッサは、その時間の90パーセントを、スピードの遅いメモリからの命令待ちに浪費してしまう可能性があります。これに対して「MyVP」技術では、1 個の組込み型プロセッサが、多数の個別の「仮想プロセッサ」のように動作をします。一つのプロセッサ・タスクが待ちを強いられると、別の仮想プロセッサが引き継いで、その結果、チ ップの持つ演算資源の100パーセントを効率的に利用することができます。

エンベデッド・システムの設計では一般に、高価な高速メモリチップと安価な低速メモリチップとのトレードオフがはかられます。タ イミングが重要とされたタスクは高速のオンチップメモリに記憶された命令を使用し、その他のタスクはすべて、外部のより低速のメモリチップに記憶された命令を使用します。メモリに関するこの問題は、あ らゆるタイプのコンピュータシステムに共通しますが、民生用電子製品のようなエンベデッド・システムでは特に深刻です。こうしたシステムでは、1ドル以下のコスト差でも死活的な問題になるからです。コ ストを抑えるために設計者は、性能を犠牲にせずに、高速メモリの分量を減らそうと努めています。「MyVP」技術を利用すれば、性能を実際に向上させながら、システムメモリのコストを低減することができます。「 MyVP」技術には、広範なエンベデッド・システム・アプリケーションで求められる「決定論的(デターミニスティック=ある条件のもとで必ず決まった結果が得られること)な性能」を 維持するための技術も含まれています。決定論的とは、簡単にいえば、ナノ秒単位のクリティカルな時間内に、システムが特定のタスクを前もって決められたとおり実行できるということです。

動作方法の改善
チップの効率が改善されると、より低速かつより低電力で動作する、より高性能なシステムを実現できます。また、ハイエンドなシステムにも、劇的な性能向上がもたらされます。

例えば、メモリ・アクセスが遅いため、携帯電話に内蔵されたベースバンド・プロセッサの効率が3分の1に低減している場合があります。すなわち、動作周波数150MHzで設計されたプロセッサが、実 効速度50MHzで動作しているといった事例です。ここで「MyVP」技術を利用すれば、クロック速度がはるかに遅いプロセッサチップを用いて、携帯電話を設計することができます。その結果、他 の設計を変更することなく、バッテリ寿命延長やバッテリ・サイズの小型化がはかれます。また、より高速のチップと「MyVP」技術のピーク効率を組み合わせることにより、デジタル・オーディオやビデオ・プ レイバックなどの新しいマルチメディア機能を安価に付与することも可能です。

さらに、効率の改善とメモリコストの低減によって、組込み型プロセッサをまったく新しいタイプのシステムに応用することが可能となります。インフィニオンが研究しているウェアラブル・マ イクロエレクトロニクスは、「MyVP」技術の利用によって新製品の性能向上とコスト低減が約束される分野の一つです。GPSなどの測位技術を子供の衣服に組み込むことが可能になります。また、無 線データ通信機能付きの高精度で安価な医療センサが実用化されると、どの年齢層の人々も、より高度な健康状態チェックの恩恵を受けられます。

メアガルトは、「MyVPは、当社の現在の注力市場と、デジタル技術が人々の生活の劇的な改善をもたらすその他の領域において、イ ンフィニオンの革新技術がいかに新製品開発の原動力となるかを示す一例です。この技術がマイクロチップのほんのわずかな領域を利用して実現できることを考えれば、MyVPは、ス マートな設計によってコンピュータ技術の恩恵が日常生活の改善にまで及ぼされることを物語る好例といえます」と、語りました。

インフィニオンについて

インフィニオンテクノロジーズ(Infineon Technologies AG)は、ドイツのミュンヘンに本社を置き、自 動車および産業分野や有線通信市場のアプリケーションへ向けた半導体およびシステムソリューション、セキュア・モバイル・ソリューション、メモリ製品などを供給しています。米国ではカリフォルニア州サンノゼ、ア ジア太平洋地域ではシンガポール、そして日本では東京を拠点として活動しています。2003会計年度(9月決算)の売上高は61億5,000万ユーロ、2003年9月末の従業員数は約32,300名でした。イ ンフィニオンは、フランクフルトとニューヨークの証券取引所に株式上場されています。

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INFCPR200211.011 e

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  • Infineon Technologies announces innovation to leapfrog Moore's Law; technology enables "virtual" microcontrollers to help make everyday electronic systems more powerful, more power efficient and less expensive
    Infineon Technologies announces innovation to leapfrog Moore's Law; technology enables "virtual" microcontrollers to help make everyday electronic systems more powerful, more power efficient and less expensive
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