インフィニオンが低コスト生産に適した高性能ポリマーICを開発

2002/11/12 | マーケットニュース

独インフィニオンテクノロジーズは、同社研究陣が、有機トランジスタをベースとした電子回路を各種基板上に作る試みに成功したと発表しました。これらの回路は、従 来得られなかった高水準の性能を達成しました。インフィニオンが作成した薄膜トランジスタ(TFT)は、アクティブ・レイヤとして有機半導体分子を用いており、1cm2/Vsを超える電荷移動度を達成しています。 この高い電気特性と、その製作のベースとなった、低コスト量産への適用を目指した製法は、超低コスト電子製品の大量生産を必要とするアプリケーションに対して、未 来のポリマー電子回路を適用するための本質的な前提条件を満たしています。

ポリマー・エレクトロニクスは、集積密度やクロック周波数に関してシリコン・ベースのICをそのまま肩代わりするものではないとしても、超低コスト生産が可能で、柔 軟性が高いという大きな利点を持っています。シリコンなどの結晶半導体を用いたICの製造は、高価な装置が並ぶ、大規模な連続プロセスを必要とし、そのため時間とコストがかさみます。これに対し、ポリマー・エ レクトロニクスは、迅速かつ低コストで大量生産することが可能です。ポリマー・エレクトロニクスに期待される用途としては、無線識別タグ(RFIDタグ)、フラットパネル・ディスプレイ、大型センサアレイ、生 化学的センサなどがあります。

電子回路(半導体、絶縁体、導電体)を作るための材料はすべて、ポリマー形態で入手できるので、原理的には、それらの材料を適当な溶剤に溶かし、次に溶液からそれらを基板に付着させ、所 定の電子機能を実現することが可能です。有機絶縁体と有機導電体については、実際に、インフィニオンの研究陣が溶液からの処理に成功しています。しかし、有機半導体に関しては、少 なくとも環境に適合する溶剤に溶かすことが難しく、処理に毒性のある塩素系溶剤を用いなければなりません。そのため、インフィニオンでは、溶剤を使用せず、気相の状態で適用できる小型の有機分子を使用しています。 これらの小型分子は、重合体半導体に比べて性能的に優れている傾向があります。小型分子を使った場合のもう一つのメリットは、昇華によって比較的容易に純化できることです。これに対し、重合体を純化する場合は、 精 巧で高価なクロマトグラフィ法が必要となります。

インフィニオンの研究陣は、広範な個別プロセスを開発しました。これらの個別プロセスを組み合わせることにより、在来のデポジション法とフォトリソグラフィ・パ ターニング技術を用いて高品質の有機トランジスタおよび回路を作成することができます。同研究陣はまた、マイクロコンタクト・プリンティング技術(フレキソグラフィック・プリンティングに似た凸版技法)を 使用して、フォトリソグラフィ技術を用いた場合に匹敵する構造寸法と電気特性を備えた、トランジスタと回路のパターン作成にも成功しています。

インフィニオンのゼンケ・メアガルト(最高技術責任者=CTO)は、「当社があげたこの最新の研究成果は、大量生産され、低コストがきわめて重視される分野において、プ ラスチック系ICがシリコンチップを補完できる可能性を秘めていることを示しています。低コストなポリマーICの用途として、バーコードの代替としての無線識別タグや、ウェアラブル・エ レクトロニクス分野などがあげられます」と、語りました。

シリコントランジスタの場合と同様、有機トランジスタはいくつかの層、すなわち、基板、ゲート電極、ゲート絶縁膜、ソースおよびドレイン電極、有機半導体(たとえば、ペ ンタセンまたは置換オリゴチオフェン)、保護パッシベーション層などから成り立っています。インフィニオンでは、有機および無機のハイブリッド構造と、すべてポリマーから成るチップの両方を開発しています。有 機半導体は、二酸化珪素(SiO2)などの無機ゲート絶縁膜にデポジットされた時に最高の電荷移動度を示すことがよくあります。過去に、無機ゲート絶縁膜を使って、2 cm2/Vsを超える電荷移動度が達成されたことがあります。しかし、高品質の無機絶縁膜へのデポジットには、時間のかかる真空プロセスを要します。もっと安価に大量生産するためには、無機絶縁膜を、処 理が容易なポリマー絶縁膜に代えることが非常に望ましいと考えられます。

インフィニオンの研究陣が目指した主な目標は、SiO2をポリマー・ゲート絶縁膜に置き換え、低コストで柔軟性のあるプラスチック・フィルムなど、さ まざまな基板上でトランジスタおよび回路を作ることにありました。これらの目標を達成するため、有機ゲート絶縁膜としてポリビニルフェノールを、有機半導体としてペンタセンを使用し、移 動度の高い有機TFTを製作するために、各種の調合方法とプロセスが開発されました。この事例では、ソースおよびドレイン電極に金の蒸着層を使って、3cm2/Vsの電荷移動度が計測されました。この数字は、こ れまで有機TFTについて計測されたものとして最高の値です。これらのペンタセンTFTを使って、同社研究陣は、最大クロック周波数が45kHz(柔軟性のあるプラスチック基板を使った場合)と65kHz( 堅いガラス基板を使った場合)のデジタル回路を作るのに成功しました。TFT寸法を現行の5μmから1μmに縮小できれば、もっと高速なクロック周波数を得ることができますが、5μmを下回るような構造寸法は、低 コストで柔軟性のある基板の量産に対しては非現実的です。

インフィニオンのチームは、もう一つの成果として、無機絶縁膜や無機金属を使用せず、すべてが有機材料から成るトランジスタおよび回路を作成しました。これは合成金属「PEDOT:PSS」を 使用して達成されたもので、これらのデバイスで計測された0.3cm2/Vsという電荷移動度は、有機ソースおよびドレイン電極を用いたTFTとして新記録になります。

インフィニオンの研究陣は、技術開発に従事しているだけでなく、ポリマー・エレクトロニクスの特殊な諸要件を満たすべく最適化された、回路の設計にも取り組んでいます。たとえば、低 コストの量産工程では避けられないパラメータ変動に関して、高い許容度を持った回路設計を実現することが、それに含まれます。高品質ダイオードなど、有機材料を使って製造することが不可能か困難な素子は、そ れと等価なトランジスタ回路を用いれば、実現可能と考えられます。

インフィニオンについて

インフィニオンテクノロジーズ(Infineon Technologies AG)は、ドイツのミュンヘンに本社を置き、自 動車および産業分野や有線通信市場のアプリケーションへ向けた半導体およびシステムソリューション、セキュア・モバイル・ソリューション、メモリ製品などを供給しています。米国ではカリフォルニア州サンノゼ、ア ジア太平洋地域ではシンガポール、そして日本では東京を拠点として活動しています。2003会計年度(9月決算)の売上高は61億5,000万ユーロ、2003年9月末の従業員数は約32,300名でした。イ ンフィニオンは、フランクフルトとニューヨークの証券取引所に株式上場されています。

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INFCPR200211.016e

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  • Infineon Technologies has developed Polymer chips with excellent electrical characteristics and optimised them for cost-effective manufacturing
    Infineon Technologies has developed Polymer chips with excellent electrical characteristics and optimised them for cost-effective manufacturing
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