照明の革命

夜、スリランカのマングローブ林は漆黒の闇に覆われます。文字どおり、手を顔の前に置いても見えないほどの暗闇です。方角を知る手がかりは夜空の星しかありません。ときどき、カエルなどの動物の鳴き声が聞こえます。魚が跳ねて水しぶきを上げる音もします。海沿いに広がる迷路のような湿地帯を夜中に探索したい人などいないでしょう。そう考えるのが自然です。しかし、実はそこではエビの漁師が働いています。夜中が彼らの労働時間なのです。毎夜、漁師たちはマングローブ林の中をボートで漕ぎ進み、水中にランプを投げ込みます。ランプの光に誘われて集まってきたエビを漁師が網で捕まえるという寸法です。

一見、昔ながらの技術を使った伝統漁法のように思われますが、実はハイテクを駆使した持続可能な漁法なのです。漁師が水中に投げ入れているのが最新のLEDランプであることは目をこらして見ないと分かりません。ランプの主流はいまだに灯油であり、LEDは少しずつ普及しつつある状況です。推計によると、これまで淡水漁業の漁師8万5,000人が1年間に消費する灯油の総量は3,000万リットルで、CO2排出量は7万5,000トンに達していました。それに加えて、灯油の流出でエビの産卵場所が何度も危機的な状況に陥りました。この安価な防水LEDランプは照明専門メーカーのDiana Electronic社が「LED Light for You (あなたのためのLEDライト)」イニシアチブの一環としてインフィニオンとOsram社の専門知識を得て開発したものです。こうした活動はデリケートなマングローブ林のエコシステムを灯油漏れから守り、CO2排出の大幅削減にもつながっています。漁師たちも革新的な技術を利用することで、夜間のエビ漁で継続的に生計を立てることができています。

スリランカのマングローブ林でエビ漁に励む漁師たちが経験していることは世界で進行している革命の一例に過ぎません。その革命も半導体なしには実現しなかったでしょう。その中で最も劇的な変化を遂げたのが照明分野です。発光ダイオード (LED) はいたるところで、既存の技術を徐々に市場から追い払い、必要な場所で使える便利な照明の汎用品になりつつあります。しかも、これまで考えられなかったほど効率性とカスタマイズ性に優れています。それを実現している要因は驚くほどバリエーションに富むLEDモジュールとコンポーネントと多様なアプリケーション分野です。

 

照明の歴史

歴史を振り返って見ましょう。大昔、洞窟に壁画を描いていた時代でも暗がりで物を見るために灯りが必要でした。当時は灯りを用意するのが困難だったはずです。「太陽王」ルイ14世の時代になると、キャンドル用の蝋の価格は普通の商人が1日に稼ぐ程度の額になりました。200年後、電球が発明されて輝かしい電気照明の時代が到来しましたが、発電と関連インフラのコストの高さが電気照明の普及の大きな壁になりました。長い間、照明は庶民にとって贅沢品であり続けました。

えびの漁師が使う旧式の灯油ランプや昔ながらの電球など、従来型の照明は膨大な量のエネルギーとリソースを必要としました。推定では現在、世界の発電量の20%が電気照明に使われています。今後20年間かけてLED技術に移行すれば、米国だけでも約2,500億ドルの節約になります。

 

日常生活におけるLED照明の役割

LED技術は普及が進むにつれて、新たな側面が生まれ、これまでにないほど、さまざまな形で日常生活に溶け込んでいます。照明がただ明るくするためのものだった時代は過ぎ去りました。事実、LED技術は人工照明の歴史の中で、これまで考えられなかったような新たな可能性をもたらしています。LED技術はエネルギー効率が高く、動的な制御によって好きなときに好きな光量を得ることもできます。医療では光療法の重要性が高まっています。医療機関での試験プロジェクトにおいて、昼間に動的な照明に囲まれて過ごした患者は夜間の睡眠の質が向上することが示されました。オフィスでは白色LEDと有色LEDを組み合わせることで照明の色を変え、1日の自然なリズムを作ることができます。家庭ではスマートフォンを使って今の気分やその場の状況に合わせた照明に設定することができます。道路交通は自動車のヘッドライトやトンネル内照明の光量が上がり、安全性が向上しています。

照明は公共空間でも中心的な役割を担っています。都市プランナー、建築家、社会学者は照明が都市生活の質に与える影響と公共の安全性を向上する効果について長年研究しています。どのような概念、投資判断においても、要になるのは効率性、信頼性が高く、恒久的に対応可能なコストのソリューションです。実務ではささいなことのようでも重要なディテールが物を言います。そして大きな差を生むのは大抵、半導体技術なのです。

 

LED照明で使われているインフィニオンの技術

インフィニオンのICL5101を例にとって説明しましょう。これは40~300Wの照明システムに使われる高電圧共振型コントローラです。ICL5101はコスト効率の高いLEDドライバの開発を容易にし、大幅なコスト削減を実現するよう構成されています。特に産業や倉庫スペース、オフィス ビル、街路や公共空間用の照明システムなど大規模照明アプリケーションでその効果を発揮します。

もう1つの例は60V DC/DC LEDドライバです。この製品は効率と電流精度でトップクラスの性能を誇り、精密な照明のコントロールが可能です。LEDをオーバーヒートから保護する調整可能な過熱保護機能を備えた初の製品です。LED保護機能により、一定温度に達したときに単純に照明をオフにするのではなく、LED照明出力を弱めることが可能です。LED照明を問題のない温度範囲で常時動作させることができるため、サービス寿命が大幅に伸びます。LEDのもう1つの利点は安全性の向上です。たとえば、道路トンネルではコンポーネントの働きにより、長期にわたって動作させてもランプの色が変わりません。緊急用照明はオーバーヒート状態になっても長期間動作します。

この革命にはさまざまな側面があり、注目されることの少ない多くのヒーローたちが存在します。世界の都市では安全性と魅力を高め、コストも削減するために照明インフラを最適化しつつあります。一方、スリランカのエビの漁師たちは闇夜のマングローブ林で作業しています。明日の夜も新しいカスタマイズLED照明を駆使し、エビを引き寄せて捕獲していることでしょう。