地球での生活を快適にする高信頼性半導体

宇宙探査では信頼性がすべてです。半導体には宇宙空間の長距離航行を無事に乗り切るだけでなく、目的地到着後に常に完璧に機能することが求められます。たとえば、宇宙探査機ニュー ホライズンズは9年半かけて50億km離れた準惑星の冥王星に向けて航行し、2015年7月15日、ついに目的地に到着しました。探査機ローバー、愛称キュリオシティは8.5か月かけて火星に到達しました。2012年8月6日に着地した後、地球に向けてカラー写真の送信を開始しました。こうしたミッションで得られた成果を考えると、間違いなく、それだけの期間を待ち続けた価値があります。今回はこの時代で最も遠く離れた場所で進行する、私たちを魅了してやまない2つのプロジェクトをご紹介します。

ミッション ポッシブル

伝統、勇気、高い信頼性こそが宇宙探査成功への道をひらく

スプートニク、ボストーク、マーキュリー、ジェミニ、アポロなど、過去のミッションにおける先駆的な業績を基に、現代の科学者たちは最近の技術革新を活かして従来よりも精緻な宇宙探査に取り組んでいます。今日の無人宇宙探査機は文字どおりニュー ホライズンズ (新たな地平) を切り拓く能力を持っています。2015年7月15日に冥王星に到着した宇宙探査機は「ニュー ホライズンズ」。ぴったりの名称です。ニュー ホライズンズは人類が初めて太陽系外縁部に到達したプロジェクトです。

IR HiRelは20年以上、宇宙探査における重要な役割を担ってきました。IR HiRelのエンジニアたちは2,000以上のミッションで信頼性の高いサポートを提供してきました。DC-DCコンバータ、電圧レギュレータ、パワー トランジスタ、ダイオード、ICなど、高信頼性半導体部品のラインアップにより、幾度となく顧客の期待を上回る成果を挙げてきました。

宇宙探査機は膨大な量の放射線を浴びます。6か月におよぶ火星への航行、500日の火星探査の結果、被曝量は300ミリシーベルトに達します。ISSで6か月滞在した場合の被曝量は約90ミリシーベルトです。ちなみに、地球上での放射線レベルは通常、1ミリシーベルト以下です。ただし、これよりも高い地域もあります。

 

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高信頼性

IR HiRelは社名がすべてを語ります。High Reliability (HiRel)、すなわち高信頼性が身上です。IR HiRelの提供する特殊な半導体は極端な環境下での使用を想定した特別な設計になっています。つまり、トラブルが発生しても保全担当者がすぐに立ち寄るのが不可能なミッション向けに作られているということです。高信頼性製品は宇宙航空、水中や地中での設置、医療機器などに使われています。こうした環境では信頼性が生死を分け、莫大な費用が投じられたプロジェクトの成否を左右することになります。

IR HiRelが専門とする分野は宇宙システム、商用航空、原油とガスの採掘、海底通信、防衛です。こうした分野ではゼロディフェクト (不良や欠陥がゼロ) の品質基準が求められます。こうした厳しい基準を満たすため、IR HiRelは高度なテスト手法を使用しています。

高信頼性製品の概要

キュリオシティ

世界を魅了した火星探査ローバー

探査ローバー「キュリオシティ」は現代技術の最高傑作です。地上で走行するミニSUBほどの大きさにハイテク ラボを詰め込んだ6輪車両です。このローバーにIR HiRel製の部品が500個以上搭載されています。2012年8月6日、キュリオシティは予定どおり火星に着陸しました。その後、パノラマカメラと顕微鏡カメラを含む特殊カメラで壮大な光景を撮影しつづけています。これらのカメラは走行にも使用されています。キュリオシティはロボット アームで土壌や岩のサンプルを収集し、内部に搭載した小型の原子力電池システムからエネルギーを得ています。このリンクからキュリオシティの活動をリアルタイムで見ることができます。

キュリオシティ プロジェクトのリーダーはピーター・サイジンガー氏とリチャード・クック氏です。2013年、この2人の科学者はTime誌「世界で最も影響力のある100」に選ばれました。カテゴリはもちろん、「パイオニア」です。

宇宙工学のエンジニアを悩ませる5つのハードル

宇宙から地球へ: 宇宙工学のエンジニアを悩ませる5つのハードル

宇宙船、宇宙探査機、人工衛星、スペース ステーションはいずれも重要な情報を収集するために使われます。しかし、技術的な支障を起こさずに地球にデータを確実に送り届けるためには数々の障壁を乗り越えなくてはなりません。その中でもIR HiRelの天体物理学者、技術者、エンジニア、数学者が日常的に頭を悩ませている5つの主な課題を紹介しましょう。

距離: 宇宙航行では途方もない距離の移動が伴います。宇宙船は広大な宇宙空間を航行し、地球に情報を送信しなければなりません。太陽系外縁部まで到達すると、コマンドの実行にも時間がかかるので、制御がますます困難になります。

放射線: 宇宙放射線は深刻な問題です。半導体は放射線の影響を受けやすいため、宇宙環境で十分な性能を発揮させるには特別な設計と処理が必要になります。

気圧: 宇宙空間に重力は存在しませんが、打ち上げ時に気圧の極端な増減に耐える必要があります。

温度: 宇宙では温度がマイナス220℃にまで下がることがあります。ところが地球や月の近くで太陽光を浴びると、宇宙船の外の温度は150℃に達します。地球の大気圏に再突入する際は1,650℃に達しますが、熱シールドによって電子機器が守られています。

動力源: ニュー ホライズンズなどのプロジェクトでは宇宙航行が年単位、あるいは数十年単位に及びます。放射性同位体熱電発生器と呼ばれる小型の原子力電池が長期間の航行を支えています。

名は体を表す: 「キュリオシティ」の由来

火星探査ローバーの開発費用は約6億4,500万米ドルです。このようなプロジェクトにおける広報活動の鉄則は「できるだけ早く納税者の理解をとりつける」です。NASAは一般の人にもミッションに興味を持ってもらうため、ローバーの愛称を募集するコンペティションを開きました。

Clara Maさんが2008年12月にこの募集のことを知ったのはまったくの偶然で、当時彼女は11歳でした。思ったより早く宿題が終わったので学校で借りた雑誌のページをめくっていると、NASAの記事に目がとまったのでした。彼女は暗い場所が苦手な一方で、人並み以上の好奇心を持つ賢い生徒です。「なぜ空は青いのだろう?」、「なぜ私は存在しているのだろう?」と常日頃から疑問に思っていました。6年生のClaraさんが通うのはカンザス州レネクサのサンフラワー小学校。そこではラテン語で"Ad astra per aspera"(困難を切り抜けて星を目指そう) という標語が掲げられていました。

 

好奇心は誰の心にも燃えつづける永遠の炎です

Clara Ma (11歳)

その日、Claraさんは学校から帰宅すると自分の部屋に直行し、パソコンでわずか10分でエッセイを書き上げました。原稿を姉に見せたところ、出しても大丈夫というお墨付きをくれました。日記によると、Claraさんは採用されることに興味を持っていませんでした。ただ、ローバーに「たくさんの偉業を成し遂げて、よい名前を付けてもらいたい」と思っていただけです。

2009年4月、Claraさんはコンペティションの勝者に選出されました。著名な専門家や天体物理学の指導的人物の案を含む、9,000件の案の中から選ばれたのでした。その結果、彼女は自分の名前をローバーに直接書かせてもらえることになりました。そして今でも彼女は自分のことを「環境活動家、宇宙愛好家、TEDxYouth発表者、他の惑星にいるロボットの名付け親、ちょっとした夢追い人」とTwitterプロフィールに書いています。

Clara Maさんのエッセイ

Clara Maさんのエッセイ

「好奇心は誰の心にも燃えつづける永遠の炎です。好奇心があるからこそ、私は朝起きて「今日はどんな驚きが待っているだろう」と考えるのです。好奇心はとても強力です。好奇心なしには、今日の私たちはあり得ません。私は幼い頃、「なぜ空は青いの?」「なぜ星は瞬くの?」「なぜ私は私なの?」と尋ねました。今でもそれは変わりません。私にはたくさんの疑問があります。アメリカはその答えを探せる場所です。好奇心という情熱は日常生活の原動力になります。人間は疑問を持ち、不思議がることで探検家や科学者になりました。確かにリスクや危険はたくさんあります。それでも私たちは不思議がり、夢想し、想像し、希望を持ち続けるのです。これまで世界についてたくさんの発見がありました。でも、それはほんのわずかに過ぎません。すべてを知ることは決してありません。でも燃え続ける好奇心があるからこそ、私たちはたくさんのことを知ることができるのです」

火星人と地球人が住める場所

宇宙の魅力

無限の広がり、壮麗な銀河、伝説に包まれた惑星。宇宙は常に人類を魅了してきました。古代文明において、水星、金星、土星、木星、海王星、火星などの惑星は非常に重要な存在でした。火星を特徴づけている赤とオレンジは地表の酸化鉄によるものですが、古代ローマ人に戦いの神のイメージを抱かせました。

赤の惑星

実は、火星が地球に似ていることが判明したのはつい最近のことです。今では赤の惑星に凍った水が存在することも分かっています。こうした発見はさまざまな夢想や願望を生みました。たとえば、火星は地球外の居住地に適しているのではないか、地球外生命も生きていけるのではないか、地球資源が枯渇するなかで人類の第二の故郷になるのではないか、などです。

緑色をした小さな火星人は発見されないかもしれませんが、人類の居住を可能にするアイデアはたくさんあります。その際、3Dプリンタが重要な役割を担います。

IR HiRelの宇宙プロジェクト

宇宙のVIPやセレブに近づき、身近な存在にするIR HiRel

IR HiRelの製品はさまざまなミッションで使われています。IR HiRelが関与したVery Important PersonならぬVery Important Projectや宇宙の「セレブ」の一覧は最近の宇宙探査の歴史における紳士録のようなもので、キュリオシティ、ハッブル、ガイア、ISS、ニュー ホライズンズなどが含まれています。リンク先にプロジェクトの概要が示されています。

私たちの製品はどの宇宙プロジェクトにも使用されているといえます

Doug Russell、インフィニオン テクノロジーズの子会社、IR HiRelのマネージャー

ソーシャルメディアが宇宙に進出

ソーシャル ネットワークにおけるキュリオシティとニュー ホライズンズ

現代では惑星やミッション自体がセレブのような存在になっています。ソーシャル ネットワーク上に無数のファンと著名サポーターを持っているからです。たとえば、ニュー ホライズンズの大ファンの中にはロックバンド「Queen」のメイン ギタリストのBrian Mayもいます。Mayは天体物理学の博士号を持っており、プロジェクトの公式サイエンス コラボレーターに任命されています。

セレブがニュー ホライズンズを熱狂的に支持しているにもかかわらず、Twitterの世界で最も存在感がある惑星は火星です。それもキュリオシティのおかげです。キュリオシティはTwitterで220万人、Facebookで110万人のフォロワーを誇っており、Twitterで「ほんの」41万4,000人、Facebookで「わずか」27万2,000人のフォロワーを持つニュー ホライズンズの数光年先を行っています。

キュリオシティ: Twitter と Facebook
ニュー ホライズンズ: Twitter とFacebook