予知保全: スマートな保守

スマートビルはインテリジェントです。とりわけ、緊急事態になる前に保守を実施すべき時期を予測する能力に優れています。その能力が「予知保全」です。しかし、それはどのように実現できるのでしょうか。インフィニオンの半導体はどのような役割を果たしているのでしょうか。

まず、従来の建物保全を再確認しましょう。定期保全では作業員が保全計画に沿って建物のコンポーネントとその状態をチェックします。消耗品は必要に応じて交換し、消耗の兆しがあればそれを記録します。その際、計画に記載されていないコンポーネントについても大まかにチェックします。経験と知識を駆使し、建物、施設、機器における潜在的なシステム故障を初期段階で発見します。では、次の定期保全を実施する前に損傷が発生したらどうするのでしょうか。

そこで登場するのが予知保全です。予知保全システムが備わっている建物はコンポーネントの現在と今後の状態が作業員による評価と同じように、ステータス、消耗度、既知の追加要素に基づいて評価されます。重要なのは定期保全の間隔と無関係に最終的に必要となる保全が予知保全によって予測可能になるという点です。つまり保全間隔にかかわらず、機器が故障する可能性を予測し、それを防止することができるということです。

 

予知保全とは

予知保全とは緊急事態になる前に保全の必要性を予測する能力です。これはシステム故障を予測し、その防止を図る保全手法だといえます。それを実現するため、さまざまなパラメータが監視と分析の対象になります。機能の異常や消耗が発見されたら、ただちにスマートビル、施設、機器の定期運用に保全や修繕の計画を組み込むことが可能です。計画が改善されるだけでなく、今後発生しそうなシステム故障を早期発見、防止することができるため、運用の信頼性とコスト効率が向上します。

このように、現状に基づいた高度な保全手法にはさまざまなメリットがあります。では他の建物保全手法とどのような違いがあるのでしょうか。予知保全の概念を明確にするために、他の保全手法の定義も見てみましょう。

その他の建物保全手法

長年にわたり、建物、施設、機器を対象としたさまざまな保全手法が考案され、進化してきました。これらはインダストリー4.0に不可欠な最新のコネクテッド スマート保全の基礎にもなっています。一般的に、どの保全手法においても生産チェーンと建物システムを経済的かつほぼ遅延なく運用し続けることが目的とされています。どの保全手法を採用するかは最終的に現場の状況によります。

従来型: 事後保全

最も一般的な保全手法の1つが事後保全です。作業を担当するのは個人です。この手法は故障後のメンテナンスとも呼ばれます。部品、機器、システムの故障が発生するまで、修繕や交換を行いません。故障するまで稼働させることを前提とした手法です。この手法は計画が不可能ですが、それなりの理由があっていまだに使用されています。システムによっては故障するまで部品を使用した方がコスト効率が高い場合があるからです。この保全手法は重要度の低い、簡単に交換可能な部品を使用しているシステムで特に有効です。それ以外の場合は予防保全などの高度な手法が採用されています。

予防的な手法: 予防保全

予防保全では、より適切な計画が可能になります。この保全手法は予期せぬ故障の発生を可能な限り抑制し、予測可能性を高めることを目的としており、定期点検で保全、交換、修繕することが特徴です。点検のタイミングが固定されているため、消耗を前もって検知できます。ただし、予定外のシステム故障が発生する内在リスクも残っています。

システムの性能と状態を常時監視する予知監視なら、予防保全の定期点検以外のタイミングで故障が発生する可能性を予測することができます。しかし、予知監視の潜在能力をフル活用するには「状態監視」と呼ばれるものが必要になります。

状態監視とは

「状態監視」とは予知保全の必要条件です。つまり予知保全の一部に過ぎず、予知保全そのものではないということです。人間に例えると、システムの状態を常に監視し、運用中に何か異常が生じたらそれを記録してそれ以上のことは行わない作業員に該当します。

鍵となるテクノロジーは「センサー」

状態監視にはセンサーが必要です。センサーのハードウェアは通常、マイクロコントローラ、集積回路 (IC)、センサー要素というシステムで構成されます。一般的にはこのコンポーネントすべてを含めて「センサー」と呼びますが、厳密に言うとセンサーは半導体技術をベースとした単一の超小型電子部品です。

状態監視はデバイスの単一部品からスマートビルの全エコシステムに至るまで、あらゆる場所に適用することができ、プリンターのトナー残量から現在使用している建物照明の状態までさまざまな情報を提供します。状態監視で収集されたデータのうち、基準値からずれているものは目標値と実績値を比較することで、すべて容易に発見できます。その結果、消耗や損傷の原因として考えられるものを把握できるため、保全と修繕の計画が容易になり、コスト効率も向上します。

予知保全のしくみ

予知保全では使用する状態監視センサーと結果のデータが基礎情報となります。インフィニオンなどのメーカーはセンサー システムに必要なすべてのコンポーネントをアプリケーション分野ごとに最適化した評価キットを提供しています。アプリケーション別のソフトウェアを組み合わせることにより、予知保全の基礎となる包括的なデータ ソースになります。そのようなユースケースのために、インフィニオンはXENSIV™ Predictive Maintenance Evaluation Kitを提供しています。

以下に示すように、予知保全デバイスはリアルタイム測定からデータ評価までさまざまな機能を持っています。

  1. センサーによるデータ収集
  2. 関連するセンサー データを随時集約
    気流に関連した空気の質など、デバイスが取得するデータの種類が増える場合は「IoTセンサー ノード」と呼ばれるセンサー内でデータが保存、処理されます。
  3.  データ処理
    デバイス内で予知保全ソフトウェアを直接実行する、未評価データを受け渡すなど、デバイスによって処理方法が異なります
    • エッジでデータを処理: エッジでデータを処理してからクラウド プラットフォームなどの中央システムに転送するか、エッジで完全に自動化された評価を実行します。デバイスはまさにネットワークの「エッジ (外縁部)」の役割を担っているのです。詳しくは「エッジコンピューティング: 今、知っておきたいこと」をご覧ください。
    • 中央システムに転送: マイクロコントローラ技術により、センサーが収集したデータは中央建物管理システムまたはWi-FiやBluetoothなどのインタフェースを経由して外部のクラウド サービスに転送されます。
  4. タ評
    最後にデータはインテリジェントなソフトウェア アルゴリズムや予知保全AIなど、適切なソフトウェア ツールを使用して評価されます。こうした要素はエッジと無関係に実行することができます。たとえば、1つのエアコン システムを中央システムに、あるいはクラウドを介して建物内の全エアコン システムに接続したとしましょう。その後、次の2つのステップが実行されます。
    • センサーのデータに基づき、ソフトウェアのアルゴリズムが監視対象デバイスのステータスの実績値と目標値を比較します。異常値が検知されるとアラームを出し、システムのステータスを記録、監視します。
    • 予知保全AIが機械学習とビッグ データをベースとしたモデルを使用して該当するデータを評価します。モータ、空気の流量と組成、振動、温度など、さまざまなデータ ソースからの値の間で相関関係があるかどうかを探ります。人工知能を活用して故障の可能性と時期を予測することで、システムの未来の状態を予測することが可能になります。

一見、非常に複雑なように思われるかもしれませんが、1人の作業員が行っていた従来の保全作業を例に取ると、理解しやすくなります。

保全作業中、ある熟練の作業員はさまざまな要因からシステム内に異常値を発見します。予知保全におけるセンサーが感知するように、作業員は熱くなっているエアコンを発見します。そして、空気の質もチェックします。そこで何らかの結論に達し、情報全体を踏まえて決断を下します。なお、他の人にも情報を伝え、周辺のエアコンもチェックします。

予知保全とスマートビルの関連性

こうしたセンサーはスマートビルにおけるスマートなインフラの屋台骨のような存在です。スマートビルとは単にデジタル化、接続された建物を指すのではありません。接続されているということは快適性と安全性が常に保たれ、最適な建物運用が可能だということです。そこで、予知保全の登場です。

スマートビル保全は既存アーキテクチャに組み込むことも可能です。デバイスには予知保全機能を内蔵したものや、より大きなオープン システムに接続可能なものがあります。そうしたデバイスを使用することにより、どの企業、建物所有者もスマートビル保全を導入できます。収集データを効果的に使用すれば、どの建物もスマートビルになれる可能性があるのです。

スマートビル保全監視とはどのようなものか

機械学習には大量のデータを評価する能力があります。予知保全における機械学習の要素に入力する関連データを取得するには、センサー、コネクティビティ、マイクロコントローラを持つ適切なデバイスを使う必要があります。室内、建物内環境には室温データと機能的効率を提供するHVAC (暖房、換気、空調) システムを使用できます。現行の建物システムを拡張し、出入りする空気の質や流入空気の経路を検知する新しい建物用センサーなどの予知保全テクノロジーを備えたデバイスを設置すれば、センサーがセキュリティ ロック機構や電力の流れをも追跡できるため、個人と建物のセキュリティを強化できます。

冷却システムや生産機器の状態を監視できるセンサーもあります。電力などの測定可能なリソース消費レベル、異常な雑音、振動の増大などを適切な予知保全ハードウェアで追跡することができるため、その機能性の評価が容易になります。3D磁気センサーを使えば、機器のパーツが正しい位置にあるかどうかも確認できます。

建物に使われる予知保全の例

建物に使われる予知保全にはさまざまな可能性があります。建物環境データの把握と機器の安全性の確保が可能になるだけでなく、建物内の作業機器や機械設備の面でもメリットがあります。予知保全のこうした要素をつなぎ合わせれば、建物エコシステム全体を総合的に把握することができるようになります。

インフィニオンはKlika Tech社、Amazon Web Services (AWS) 社と共同でPredictive Maintenance Evaluation Kitを開発しました。このキットは建物のHVACシステム内の要素など、複数の重要な要素を監視する機能を備えています。シンプルな異常スコアを基に、正常な状態から逸脱している状況を検知することができます。この評価キットを使用すると、HVACシステムにおける状況監視と予知保全の評価が容易になります。インフィニオンのセンサーとマイクロコントローラ技術はKlika TechのIoT、クラウドアプリケーション分野における体験に最適化されています。また、AWSクラウド サービスならクラウド内で容易に拡張することができます。

スマートビルにおける予知保全のメリットとデメリット

スマートビルにおける予知保全には不要な保全作業の排除からテナントの快適性、経済的効率性までさまざまなメリットがあります。

  • コスト最適化
    予知保全テクノロジーとそのデバイスには初期投資が必要です。予知保全を適切に導入すれば、保全コストが最適化され、ROIが向上します。さらに、予期せぬ故障を回避し、中断せずに運用を継続できます。また、部品交換が早すぎたり遅すぎたりすることなく、適切なタイミングで保全措置を取ることも可能です。
    米国エネルギー省によると、予知保全にはコストを最大1/3、予定外のダウンタイムを最大3/4削減する効果があります。

 

  • のサビス範
    スマートビルのデータと建物の状態をリモートで分析したり、保全作業すべてをリモート監視業務として外部の業者に委託することも可能です。また、各種スマート保全デバイスとシステムを提供しているメーカーはデバイスの追加サービスとしてその業務を請け負うこともできます。このようにさまざまな可能性が考えられるため、スマートビルの居住者と所有者はそれぞれの目的に集中することができます。一方、サービス業務の委託、効率的な計画作成、建物全体の調整も、建物運用を中断せずに可能になります。

 

  • 作業員の負担
    予知保全のもう1つのメリットは居住者の快適性と安全性の向上です。作業員にとっても、作業環境は満足度と集中力に影響します。HVACシステムの定期保全を実施すれば、常に質の良い空気を保つことができ、巡り巡って作業員の健康と生産性が向上します。
    職場の安全性が向上すれば、事故の減少と作業員の信頼向上につながります。

こうしたメリットを享受するためには建物や施設内で以下の条件を満たす必要があります。

  • デバイスを正しく設置する
    予知保全の監視対象となるデバイスと建物インフラは正しく設置する必要があります。正しく設置しないと、収集したデータに誤りが生じ、誤った評価結果につながる可能性があり、信頼できる予測ができなくなります。デバイスの配置もユースケースに合わせる必要があります。各階で空気の質を監視するデバイスを1つ設置しただけでは本来のメリットが得られません。

 

  • するデタを評する
    新規の建物の場合、センサーとマイクロコントローラを統合するのは容易です。なぜなら、計画段階からスマートビルの全体コンセプトが確立しているからです。一方、既存の建物の場合、既存テクノロジーを予知保全テクノロジーに交換する作業には労力がかかります。すべてのデバイスを同時に更新できるとは限らないからです。そのため、現行の建物保全計画の関連データに優先順位を設定し、保全の労力を軽減する鍵となるデータを特定して、該当する機器の更新や同期化を図ることが必要になります。

 

  • コスト増を受け入れる
    予知保全では保全コストを軽減できる一方、初期投資や運用コストを考慮する必要があります。たとえば、データ処理を外注すると、新たな継続コストが発生します。また、データ保存や中央システムの処理にもコストがかかる場合があります。

スマートビル向け予知保全ソリューション

予知保全を初めて導入しようとする際、決断に躊躇してしまうかもしれません。さまざまな点を考慮し、調整する必要があるため、個々に予知保全の潜在価値を見きわめるのが困難だからです。特に、こうした機能を備えたデバイスを用意する側にとっては容易な決断ではありません。

 

予知保全ソリューションを提供するためにはハードウェア、ソフトウェア、通信、情報技術などの分野の専門知識を集約する必要があります。インフィニオンではIoTエコシステム内でパートナーシップを形成してこうした知識を蓄積し、XENSIV™ Predictive Maintenance Evaluation Kitなどの包括的なソリューションを提供しています。XENSIV™ ファミリーは高い互換性を持っているため、さまざまなセンサーと共に使用することができ、見る、聞く、感じる、そして必要な措置を把握できるスマートビルを実現します。それが、最終的にスムーズな建物運用につながるのです。

 

インフィニオンの予知保全製品の概要についてはhttps://www.infineon.com/cms/jp/applications/industrial/smart-building/condition-monitoring-and-predictive-maintenance/をご覧ください。

 

最終更新:2021年7月