スマートマシンとロボット:専門家ウルリッヒ・エバール氏とのインタビュー

一般的にはスマートマシン、具体的にはロボットは、産業および社会でますます重要になっています。ロボットは、私たちの生活のあらゆる領域、事務所や工場で、さらには家庭や移動中の日常生活に、大きな変化をもたらすでしょう。しかし、スマートマシンとは一体何でしょうか。私たちの仕事にどのような影響を与えるのでしょうか。人間と同じ程度の知能を持つことができるのでしょうか。スマートマシンの専門家、ウルリッヒ・エバール氏に伺ったところ、興味深い事実を明かしてくれました。

スマートマシンの定義

インフィニオン:エバールさん、スマートマシンとは一体何でしょうか。

ウルリッヒ・エバール氏:そうですね、もちろん、私の小さなNAOロボットはスマートマシンなのか、という質問もあり得るでしょう。でも、私はそうは思いません。NAOに多くのこと、たとえば、ハムレットからの引用、サッカーのプレイ方法、私の代わりにパン屋でプレッツェルを買う方法を教えることができます。これは、かなり楽しいものです。しかし、それは、さまざまな動作を機械に命令している状態です。

私の考えでは、スマートマシンはそれ以上のものです。スマートマシンは、あらゆる分野で、ますます人間に似てきています。歩く、物をつかむ、話す、聞く、見る、物体を認識する、物体を操作する、という動作ができます。これらの動作は、すべて、NAOでもある程度までは実行できます。NAOにできないこと、そして、すでにスマートマシンで可能になっていることは、たとえば、読み書きです。

機械学習

インフィニオン:その読み書きの能力はどの程度進歩しているのですか。

ウルリッヒ・エバール氏:自然言語の文章を読むことができるスマートマシンは、非常に多くあります。しかし、それはNAOのようなロボットではなく、コンピュータプログラムです。たとえば、専門的な医学文献や患者ファイルを数秒で読んで、医師に助言することができます。あるいは、弁護士の代わりに法律文を調査することもできます。また、営業報告書を分析し、最近のニュースや株式市場データとの関連を調べて投資の助言ができます。

ロボット記者は、地域の天気予報やスポーツの試合結果など、簡単な文章を書くこともできます。そのマシンは、たとえば、サッカーの最終得点および誰がいつゴールしたかが判明すると、直ちに短い文章を生成します。

インフィニオン:スマートマシンにも学習する能力があるのでしょうか。

ウルリッヒ・エバール氏:はい、それはきわめて重要なポイントです。今日のスマートマシンは、たとえば、観察と模倣によって、常に新しいことを学習しています。人が動作を実演して見せると、直ちにその動きを再現できるロボットが、工場にすでに存在します。

インフィニオン:スマートマシンはどのようにして学習するのですか。

ウルリッヒ・エバール氏:過去5年間にわたって大きく話題になったディープラーニングという方法は、人間の脳の原理に基づいています。マシンには、きわめて多数の人工神経細胞があり、相互に複雑につながっていて、強化およびフィードバックによって学習します。人間と少しも違いません。人間は、赤信号が「止まれ、危険!」という意味であることを十分に学習すると、赤信号を見た途端にその関連を思い浮かべます。

ディープラーニングネットワークに、動物または顔の写真を多数見せると、動物や人を完全に認識できるようになります。音声認識、テキスト解析、翻訳プログラムについても同じことが言えます。グーグル、あるいはアレクサのようなインテリジェントスピーカーは、検索クエリまたは音声コマンドがあるたびに改善しています。

インフィニオン:ロボットを学校へ行かせることはできますか。

ウルリッヒ・エバール氏:はい、できます。すでに、実行されています。私のお気に入りのロボットは、ジェノヴァにあるイタリア技術研究所が開発したiCub(アイカブ)ですが、この研究所は、ロボット工学と人工知能研究の重要拠点です。ジェノヴァでは、iCubが幼稚園で幼児と同じように学んでいます。教室にすわったり、歩き回ったりして、常に新しいことを見つけようとしています。そうすることで、テーブルを片付ける方法、あるいは、おもちゃの使い方を学習します。たとえば、ビーカーを持ち上げて、それを見て、人間の先生に「これは何というものですか」と尋ねます。すると、先生は「それはビーカーです。その色はオレンジです」と答えます。iCubは、何かを学習するたびに、ごほうびがもらえます。

インフィニオン:どのようなごほうびですか?

ウルリッヒ・エバール氏:そうですね、たとえば、電気をより多く与える、というのではありません。学校で良い成績を取る、というのに少し似ています。ロボットは、ただポイントを集めているだけです。すなわち、コンピューターゲームをプレイするような感覚で生活しているのです。何か良いことをすると、ごほうびにポイントをもらえます。拙著「Smart Machines」のための調査をしているとき、世界のロボット工学の中心地、大阪でそのようなiCubを見かけました。そのロボットは、前にいる人が次に何をするかを正しく予測できれば、ポイントをもらえます。私は、あるときテーブルでiCubの先生の隣にすわっていて、みんなの前にはティーカップが一つだけ置いてありました。iCubは「あなたは、カップを持ち上げて飲みます」と言いました。

唯一の問題は、カップの位置が遠すぎることでした。人間はカップに手が届かないので、持つことができません。ロボットもその状況を見ています。そのときロボットは、興味深い行動を取りました。カップを人間に向かって押したのです。まるで「さあ、カップを取ってください。ポイントがほしいのです」と言うように。おもしろいのは、誰もそのような行動をするプログラムを作ってはいない、ということです。ロボットは、カップを押すことを自ら学びしました。将来、ロボットを日常生活での利用に適したものにするには、この種の報酬学習が最善の方法かもしれません。

インフィニオン:誰がロボットに教えるのですか。

ウルリッヒ・エバール氏:将来は、機械のための教師のようなものが絶対に必要になるでしょう。要するに、何が良識ある行動なのか、どのように問題を解決するのか、を機械に教える必要があります。子供を育てるのと同じことです。人間は、自然にそのような課題を身につけていきます。機械に自律的に判断させようとするならば、私たちの倫理規範を機械に教え込む必要があります。だからこそ、機械倫理に関する最初の大学講座ができています。機械は、どのようにして善悪を区別するのでしょうか。それはきわめて重要な問題です。

ロボットと人間

インフィニオン:ロボットは感情を持つことができますか。

ウルリッヒ・エバール氏:興味深い質問です。私は、Roboy(ロボイ)を見かけることがよくあります。骸骨のような身体と卵形の頭の、すてきな小さいロボットです。そのロボットは、「ぼくは恥ずかしがり屋です」というようなことを話します。そして、下を向いて顔を赤らめます。本当にかわいいです。しかし、当然ながら、ここで、はっきりさせておく必要があります。それは、単なる見せかけだということです。機械は、本物の感情を持っていません。ロボットのバッテリが消耗したとき電気に対して飢えを感じる、エンジンが過熱したら痛みを感じる、というようにすることは可能ですが、それは人間の感情ではありません。

インフィニオン:ロボットはどれくらい人間に似たものにできますか。

ウルリッヒ・エバール氏:日本の研究者は、人間とほとんど見分けがつかない機械を作っています。そのようなアンドロイドの前に立つと、それが本物の人間なのか、機械なのか、よく見なければわかりません。皮膚は柔らかく暖かみがあり、毛穴もあります。目は完璧にできています。口も、髪の毛も同様です。人間と同じように話しますし、瞬きをして、ほほえみます。まったく見事なものです。

デンマークの教授が、日本で自分にそっくりなロボットを製作しました。教授は、そのロボットをコペンハーゲンに持ち帰って、講義をさせました。冗談抜きで、「学生たちは休憩時間になるまで、そこで講義しているのが教授ではないということに気づかなかった」と教授は言っています。

インフィニオン:未来の人間とロボットの共同作業は、どのようなものになるのでしょうか。

ウルリッヒ・エバール氏:共同作業は、もうすぐ実現します。部分的には、すでに実現しています。たとえば、日本企業のグローリーは、現金自動預け払い機を作っています。そこでは、ほとんど人間そっくりのロボットが人間の隣にすわって、人間と一緒に働いています。互いに部品を手渡したり、一緒に製品を組み立てたりしています。おもしろいのは、ロボットも朝の体操に参加しているのです。「どんな意味があるのですか」と質問したくなるでしょう。機械に体操は不要です。それはそうかもしれません。しかし、ロボットに好感を持てるようにするためです、とグローリーの幹部は言っています。

インフィニオン:ロボットを恐れるのは西洋の特性でしょうか。

ウルリッヒ・エバール氏:ロボットが世界を征服する、というのは、まったく西洋的な作り話です。私も世界中を訪問して、そのことを学びました。日本では、まったく状況が異なります。西洋人は、人間と機械の対立という考え方を根強く持っています。それは、古くまで歴史をさかのぼります。ゴーレム、フランケンシュタイン。HAL 9600、ブレードランナー、ターミネーター、トランスフォーマー、などなど、多くの映画、小説、劇があります。人間対機械。これが西洋の考え方です。

東洋では、まったく状況が違います。たとえば、日本では何百年も前から、人間を補助する機械という考え方があります。約300年前に日本では、たとえば、お茶を運ぶ大きな機械仕掛けの人形を作っていました。その伝統が続いています。第2次世界大戦後、悪と戦って人間を助けるロボットの少年、鉄腕アトムが、マンガ、テレビゲーム、アニメ映画に登場します。考え方がまったく異なっています。人間と機械の調和というものです。したがって、この問題の背景には、多くの文化的相違があると私は考えています。また、SFによる影響もあるでしょう。人類を脅かすスーパーインテリジェントな機械というのは、現実から遠くかけ離れています。

ロボットと仕事

インフィニオン:仕事に関して、ロボットはどのような意味を持つでしょうか。

ウルリッヒ・エバール氏:スマートマシン、すなわちロボットおよび学習アルゴリズムが、ほとんどすべての仕事に変化をもたらすことは間違いないでしょう。それよりも重要な問題は「人間の仕事を一括して奪ってしまうのか、それとも、なくなるよりも多くの仕事を生み出すのか」ということです。とりあえず、これについては多くの研究がなされています。最も有名なのは、オックスフォード大学の研究で、700の職業を調べて、今後20年のうちにその主要な作業が自動化される可能性を検討しています。

ウルリッヒ・エバール氏:何よりも、データ収集、整理、処理という定常的事務作業です。会計、物流作業、保険販売、弁護士補助、フィナンシャルアドバイスといった仕事です。要するに、銀行のアドバイザーは、文章を分析できるコンピュータシステムに対して、たとえば、営業報告書を分析して投資に関する助言を提示するように要求して、アドバイザーはその結果を顧客に伝えます。そこで、当然の疑問が出てきます。そもそも、なぜフィナンシャルアドバイザーが必要なのでしょうか。私が直接にコンピュータまたはチャットボットと話をしてはいけないのでしょうか。

ウルリッヒ・エバール氏:いいえ。何かを自動化可能であるという事実は、それが費用に見合うかどうか、合法的であるかどうか、あるいは、私たちがそれを望んでいるかどうか、については何も物語っていません。その例として、トラック運転手を考えてみましょう。車両が自律的に走行できるようになったとしても、トラック運転手は、直ちに仕事を失うわけではないと私は考えています。高速道路で車を運転していて、無人の大きなトラックが私の車を追い越していくところをよく想像します。私たちはそれを受け入れられないだろうと思います。それは、パイロットの状況に近いのではないでしょうか。飛行機は、今では飛行ルートの大部分を自律的に飛行しています。離陸および着陸のため、あるいは何らかの異常事態発生時のために、パイロットが必要とされています。この状況は、トラックでも同様となるでしょう。

ウルリッヒ・エバール氏:創造的で複雑な職業、たとえば、研究者、技術者、写真家、建築家、作曲家、デザイナー、工芸家などです。しかし、対人スキルを要する職業、たとえば教師、ソーシャルワーカー、介護士、経営者、コーチ、マーケティング専門家なども同様です。そして、もちろん医師も。これは非常に興味深いところです。なぜならば、銀行アドバイザーと同じように、将来は医師も、自分に代わって患者ファイルや専門文献を読むシステムに助言を求めるようになると思われるからです。そこで、疑問が出てきます。そもそも、私は、なぜ医師を必要とするのでしょうか。しかし、その答えは明らかです。人は、将来も人間の医師と話をしたいと思うでしょう。医師に共感してもらうことは、半分回復したようなものです。場合によっては、長年知っている患者であれば、医師は、患者が何を求めているかを直観的にわかっています。

ウルリッヒ・エバール氏:たくさんあります。前述のようなコンピュータシステムを攻撃から保護して、信頼性を維持することがどれだけ困難であるか、考えてみてください。そして、先に述べたように、スマートマシンの教師が必要です。もちろん、機械を設計して、生産しなければなりません。ついでながら、これは、ソフトウェア開発者の状況にちょっと似ています。1980年代初めには、まだパソコンがなかったので、ソフトウェア開発者はいないも同然でした。今では、全世界に約2千万人のソフトウェア専門家がいます。

インフィニオン:機械は仕事を守ってくれるのでしょうか。

ウルリッヒ・エバール氏:守ります。産業の自動化が高度に進んだ3カ国、韓国、日本、ドイツを見ればわかります。この3カ国の失業率はきわめて低くなっています。これは、実際には、直観に反することです。自動化が進むと、人々は仕事を失うと思うでしょう。しかし、うまく進めれば、産業の競争力が強化されますし、製品は世界市場でよく売れるようになります。その結果として、多くの仕事が生まれるのです。

将来の展望

インフィニオン:スマートマシンは、まもなく日常生活の一部になるでしょうか。

ウルリッヒ・エバール氏:全体として見れば、スマートマシンおよび人工知能の分野では、過去5年間に、それ以前の50年よりも多くのことが起こっていると言えます。本当に成長している分野で、私たちはごく初期の段階にいるのです。今後20~30年で、マイクロチップの計算能力、記憶容量、データ転送速度は千倍にも増加して、その価格は今と同程度のままでしょう。それと同時に、ソフトウェアがますます強力になっています。すなわち、スマートマシンの学習方法および知識の生成と処理に関する性能が上昇するということです。

この傾向は、私たち全員に影響を及ぼします。年齢や職業には関係ありません。スマートマシンは、今のスマートフォンのように、日常生活の一部として不可欠なものになっているでしょう。10年前に最初のスマートフォンが発売されて、今では、多くの人にとってスマートフォンがない生活は想像できません。その進歩は、きわめて急速です。スマートマシンについても、同じようになるでしょう。どこにでもあって、それが学習する機械であるとは気づかないことも多いでしょう。私たちは、スマートマシンと一緒にいる社会に住み、スマートマシンと協力して働いているでしょう。スマートマシンは、家庭に、職場に、工場に、そして道路上にもあるでしょう。あらゆる場所にあるのです。

ウルリッヒ・エバール博士の経歴

ウルリッヒ・エバール博士の経歴

ウルリッヒ・エバール博士(写真左)は、スマートマシン、人工知能、ロボット工学の分野で第一人者と言われています。物理学の博士号を取得した後、ウルリッヒ・エバール氏は、ダイムラーの技術出版部門に従事。次に、シーメンスで20年間にわたって、研究、イノベーション、将来動向を担当し、2016年からフリーランス。ウルリッヒ・エバール氏は、有名な専門書「Life in 2050」(2050年の生活)および「Smart Machines」(スマートマシン)、小説「Tatort Zukunft」(犯罪現場の未来)の著者であり、未来の技術について多数の講演を行っています。その中でもインフィニオンのヴァールシュタイン工場での「Smart Machines」に関する講演が、このインタビューの基になっています。エバール氏のロボットで仲間のNAOが、講演の間、付き添っていました。

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