短い充電時間と長い走行距離 – 電気自動車は幸先の良いスタートを切っています

私たちのモビリティは、常に変化しています。ライフスタイルの変化、および持続可能性のある未来への意識向上に応じて、この旅の目的地が決まります。モビリティの未来が電動化にあることは明らかです。電気自動車は、排気ガスを出しません。持続可能な方法で生成されるエネルギーのおかげで、電気自動車も、広い意味でCO2ニュートラルです。しかし、今のところ、電気自動車を運転しようとしている人は、ごくわずかです。

電気自動車は高価すぎる、充電に時間がかかる、長距離を走れない、という考え方が広く行き渡っています。しかし、これらの状況は、まもなく過去のものになるでしょう。充電インフラの普及、急速充電スタンドの開発、高効率バッテリーなど、いくつものイノベーションの兆候が見えています。その中でも、新しい材料とテクノロジーで未来のモビリティを実現するのが半導体です。

なぜ電気自動車に乗る人が少ないのでしょうか?

ユビキタス:日常生活でのバッテリー充電

私たちは誰でも、バッテリー充電を何度も繰り返しています。多くの場合、ガジェットの中で何が行われているのか知らずに充電しています。最新のスマートフォンは、毎日充電する必要があります。電動歯ブラシを夜間に充電台に置いています。当然ながら、ポータブルスピーカー、スマートウォッチ、電動自転車も充電しています。このような充電プロセスは、日常生活へ自然にとけ込んでいて、コンセントを差し込むだけの最小の手間で、最大の利便性を提供しています。基本的には、電気自動車の充電プロセスは、同様に単純なものです。しかし、多くの人が抵抗感を持っています。なぜでしょう。

電気自動車の充電:高速化できるのでしょうか?

スマートフォン、電動歯ブラシ、電気自動車の充電は技術的観点では、そのプロセスはすべて同じです。いずれの場合も、電気エネルギーが化学的形態で蓄えられます。しかし、より詳細に見れば、重要な違いがあります。携帯電話では、充電と動作、二つのことを同時に実施できます。電気自動車では、そのような贅沢なことはできません。これは技術的要因ではありませんが、重要なことです。私たちは、電動歯ブラシを一晩中充電して、翌朝、数分間だけ使用するのが普通だと考えています。しかし、電気自動車については、多くの人が、これは不合理だと思っています。多くの場合、自動車を使わない時間が1日のうち23時間あるにもかかわらず、そのように思うのです。

自動車の運転手は、いつでも好きなときに、あるいは必要なときに、車で長距離を走ることに慣れてしまっています。しかし、電気自動車では、それが不可能なように思われます。でも、時代は変わりました。技術革新のおかげで、電気自動車でもこの自由を経験できるのです。今まで想像もできなかった性能を実現するバッテリーが開発されています。さらに、急速充電スタンドが、長距離走行に必要なエネルギーを数分で供給します。

さらに進歩するバッテリーと充電時間

短い走行距離や長い充電時間は、すでに過去のものです。

鉛蓄電池を装備した乗用車の走行距離が100km以下だったのは、遠い過去の話です。何時間も続けて充電するというのも同様です。1995年にフォルクスワーゲンは、ゴルフ3 シティストローマーを発表しました。これは、鉛ゲルバッテリーを搭載した自動車で、走行距離は55kmでした。その後、電池容量が増え、走行距離は65kmにのびました。大したことではないように思われるかもしれませんが、大きな車両を動かすのだということを忘れてはなりません。この車両の充電器は、限られた出力しかない、通常の家庭用コンセントで充電するように設計されていました。空のバッテリーを充電するには、6~8時間もかかりました。100kmの旅行をするためには、必ず1泊する必要がありました。

近頃の電気自動車は、はるかに高性能なバッテリーを搭載しています。しかし、話はそこで終わるのではありません。毎日新たな発見があります。

しかし、重要な疑問が残ります。電気自動車のバッテリーは、どのようにして高効率、高出力になるのでしょうか。

バッテリーは何ができるのでしょうか?

基本的には、バッテリーの二つのパラメータによって、バッテリーがエンジンに供給できる電力、およびバッテリーを充電するのに必要な電力が決まります。その一つは、バッテリーの容量です。これは、化学的形態で蓄積される最大電気量をアンペア時(Ah)で表したものです。もう一つは、バッテリーの電力密度です。これは、一定の電力を供給するために必要なバッテリーの大きさおよび重量を示すものです。電力密度は、使われる材料によって決まります。最初の鉛蓄電池は、19世紀中頃に生まれました。今日のリチウムイオン電池は、同じサイズの鉛蓄電池の7倍の電気量を蓄えることができます。

電気自動車のバッテリー管理

電気自動車のバッテリー管理

電気自動車のバッテリーは、できるだけ効率的に利用しなければなりません。これは、バッテリーの充放電を制御し、バッテリーセルの最適な利用を実現する、スマートバッテリー管理システム(BMS)によって保証されます。このシステムは、各セルを確認して、その充電のバランスを動的に調整します。これにより、バッテリーの寿命と走行距離を効率的に拡大できます。インフィニオンのシステムソリューションは、有効電池容量を10%以上拡大しました。マイクロコントローラとセンサが機能および充電レベルを監視します。

電気自動車の充電 – 現在と未来

バッテリーを充電する際には、バッテリーサイズと充電電流の比率が重要になります。たとえば、2016年からBMW i3のバッテリー容量は95Ahとなっています。100Ahのバッテリーを100アンペア (A) の電流で連続して充電できたとすると、理論的には1時間で満充電になります。

 

100Ahのバッテリーを、現在の通常電圧である400Vで1時間充電するには、およそ40kWの充電電力が必要となります。現在のDV方式の充電装置では、最大50kWまで供給できることが多いです。

 

既に「急速充電」なのでしょうか?そうではありません。1時間で伝送できるのは、航続距離200kmに必要な電流量です。

 

350kWまでの電力をバッテリー充電できるようになります。これに対応できれば、60kWh (電気自動車用バッテリーの平均電圧400V〜800V × アンペア時100=60kWh) のバッテリーがわずか数分でフル充電されます。現在、このような高い充電力は、世界の量産車ではサポートされていません。とはいえ、この新しい充電技術を利用できるモデルは、kW数が低いものであれば存在します。

電気自動車の充電にどれだけの時間がかかるでしょうか?

A glimpse behind the scenes

舞台裏をのぞく

チャージング インターフェイス イニシアチブ(Charging Interface Initiative、略称:CharIN)のような組織が、適切な充電インフラを世界中に確保するために設立されています。CharINは、電気自動車の充電インフラにおけるグローバルスタンダードを開発、策定、推進しています。 エレクトリックモビリティ、自動車、データセキュリティの分野で広範囲にわたる経験を持つインフィニオンは、CharINを支援しています。インフィニオンは、そのメンバーとして、エレクトリックモビリティの安全性向上、効率化、高速化を支援し、効率的な充電インフラ整備に貢献しています。

急速充電スタンドに関する課題

大電力充電スタンドの開発

急速充電スタンドを世界中に整備しなければなりません。それだけでも、大変な課題です。しかし、急速充電スタンドを広い範囲にわたってインフラへ組み込む前に、解決しなければならない技術的課題がいくつかあります。とくに、高電力の出力が課題です。統合充電標準(CCS)では、500Vを超える出力電圧を許容しています。通常であれば、この電圧は、訓練を受けた専門家だけしか扱うことができません。したがって、高い電圧に耐える統一した接続プラグ、および非専門家でも扱える安全な手順を用意する必要があります。

もう一つの問題は、電力網から供給されるエネルギーが、車載バッテリーに適合していなければならないということです。なぜ、それが課題なのでしょうか。バッテリーは直流の電源です。電力網から得られるのは交流であり、バッテリー充電には適していません。パワーエレクトロニクスによるエネルギー変換を利用して、交流を直流に整流する必要があります。これによって、供給電力を車載バッテリーに適したものにします。交流を直流に変換する

電力損失および熱:その処理方法

充電スタンドでは、電力網からの交流電流を車載バッテリーに適した直流に変換しなければなりません。このとき、使われている部品は、いわゆる電力損失を発生します。すなわち、エネルギーが熱の形で放出されます。極端な場合には、この熱によってデバイスが破壊されることもあります。計画通りの高電力レベルを扱うと、電気自動車に充電するときにも、かなりの損失が発生し高温になります。強力な冷却処置をしなければ、問題が起こります。ケーブルの断面積がきわめて大きく不格好になるか、または絶縁物が溶けてしまいます。

電気自動車の充電を高速、高効率、安全に

効率の最適化

過熱を防ぐために、水冷電力ケーブルが必要になります。これにより、充電スタンドから車に至るまで容易に取り扱える、比較的細い充電ケーブルを利用できます。それと同時に、電気自動車に充電する際の損失をできるだけ低減しなければなりません。そのためには、電力網からの交流を車載バッテリーのための直流に変換する、効率的なパワーエレクトロニクスが必要です。損失をできるだけ低く抑えなければなりません。おそらく97%という高い効率であっても、大きな損失が発生します。これを説明すると、300kWの充電を97%の効率で実施すれば、9kWの損失が発生するということです。これは、フルパワーで動作する8台のヘアドライヤーを冷凍庫内に置いても、冷凍庫内部の温度は上昇しないだろうと考えるのと同じようなものです。

インフィニオンの製品による効率向上

充電スタンドの小さな設置スペースで高電力を扱うと、きわめて高温になることは避けられません。熱は、周囲の電子回路の動作にリスクをもたらします。エネルギー変換の効率が99%以上であれば、充電スタンドの冷却は比較的容易です。損失が最小限であれば、熱が発生しないからです。インフィニオンの最新のパワー半導体が、その設計の中心的位置を占めます。風力発電、太陽光発電、電車の駆動システム、携帯電話の充電など、さまざまなアプリケーションで、何十年にもわたってパワー半導体が同じような形態で使われてきました。このような半導体は、わずか数年前には全くの作り話だと思われていたほどの効率レベルに到達しています。

材料に至るまでの徹底した開発

材料についても、将来性のある開発が行われています。より正確に言えば、その材料はSiC(シリコンカーバイド)およびGaN(窒化ガリウム)です。これらの材料によって、より小型でより高効率の部品の生産が実現しました。その結果として、電気自動車の充電スタンドのように効率が重要なアプリケーションにおいて、これらの製品は、きわめて重要な役割を果たしています。インフィニオンは、すでに高効率SiCモジュールを開発中です。この製品は、同様に高い効率を要求される太陽光発電業界で急速に地位を確立しました。ここで得られた経験は、エレクトリックモビリティで使われる高効率回路の開発に活かされています。インフィニオンの革新的技術は、電気自動車向けの新しい充電スタンドにも使われており、これにより充電時間を3時間から数分へと短縮できるはずです。

最初の急速充電スタンドはいつ実現するのでしょうか?

扱いやすいサイズでありながら、5分以内に100kmの走行に必要な充電を行うことができる最初の充電ステーションが、ドイツですでに設置されています。急速充電に必要な高い基準を満たす、最初の自動車の登場に間に合いました。これにより、電気自動車の運転や充電がより魅力的になります。この事実は、ドイツ政府も認めており、アウトバーン (高速道路) や遠隔地にある急速充電ステーションの拡大を総額20億ユーロで支援しています。これにより、充電中の長い待ち時間や航続距離の短さは過去のものとなるでしょう。

ヨーロッパで拡大している急速充電インフラに、もうひとつ貢献しているのがIONITYです。同社は、ドイツの自動車メーカーであるフォルクスワーゲン  (VW、アウディ、ポルシェ)、メルセデス、BMW (ミニを含む) のほか、フォード、ヒュンダイが共同で設立した会社です。この企業の目的は、欧州の長距離路線にHPC (ハイパワーチャージャー) を装備することです。欧州のCSS規格に準拠した最大350kwの充電ステーションを備えた充電パークを400カ所建設する計画です。

 

そこでは、BMW ix3などの現行のトップモデルが、最大150kWの充電電力で、わずか30分強で80%まで充電することができます。 

更新:2021年7月

SiC(シリコンカーバイド)

SiCは、複合半導体材料であり、革新的な方法によって、さまざまなアプリケーションでパワーエレクトロニクスの効率を改善します。その理由は、スイッチング損失を最大80%低減することにより、性能を改善し、電力密度を向上し、システムのサイズとコストを低減します。

GaN(窒化ガリウム)

GaNは、電流密度やブレークダウン電圧の大きいパワーアプリケーション、および高周波アプリケーションに最適です。