今知っておきたい、クラウドコンピューティングについて

ドイツ企業の3分の2が、すでにクラウドコンピューティングサービスを利用しています。さらに、何百万人もの個人が、クラウドプラットフォームを使って音楽や写真を保存しています。しかし、「ひとつだけのクラウド」が存在しているわけではありません。同様のテクノロジーを使ったさまざまな保存方法があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。そこで、「クラウドのジャングル」の道案内をしましょう。

クラウドコンピューティング‐その名のとおりですが、この技術用語の本当の意味を知っている人は、ごくわずかです。それにもかかわらず、クラウドとは気づかずに利用している場合も含めて、すでに私たちの私生活や仕事に定着しています。

たとえば、スマートフォンを使って写真や動画を撮影して、インターネットにアップロードするとき、たいていはクラウドを利用しています。その写真や動画が行き着く先のDropboxやマイクロソフトのOneDriveのようなオンラインストレージは、通常はクラウドデータセンターに存在するからです。Spotifyのような音楽サービスやNetflixのようなビデオストリーミングサービスは、音楽、テレビ番組、映画をクラウドデータセンターから提供しています。

クラウドコンピューティングとは?

そもそも、クラウドコンピューティングとはどのようなもので、どのように動作するのでしょうか?簡単に言えば、クラウドサービスは、デリバリーサービスのようなものです。自分で料理するかわりに、利用者は、ピザ、パスタ、寿司をサービスプロバイダーに注文します。自宅のオーブンは冷たいままで、せいぜい食後にエスプレッソを入れるのにキッチンを使うくらいです。クラウドコンピューティングは、これと同じ原理です。この場合には、ピザが配達されるのではなくて、利用者は、データセンターが提供するITサービスにアクセスできます。企業または個人は、自分の「キッチン」、すなわちサーバ、ストレージシステム、およびデータの処理または保存のための関連ソフトウェアを持っている必要がありません。

Office製品、データベース、ITセキュリティソフトウェアのようなアプリケーションも、この方法で利用できます。たとえば、マイクロソフトは、Office 365のローカルバージョンとクラウドバージョンを提供しています。それは、ユーザーがDVDやインストールファイルを使って、自分のコンピュータにインストールするソフトウェアパッケージと同じ機能を持っています。

しかし、クラウドはどのようにしてユーザーに届けられるのでしょうか。ピザのデリバリーサービスであれば簡単です。道路と自動車または自転車を使います。クラウドサービスを使いたければ、やはり道路のようなものが必要です。それが「データハイウェイ」です。これを使って、コンピュータ、ノートパソコン、スマートフォンをクラウドデータセンターに接続します。住宅またはオフィスでは、クラウドへの接続には、多くの場合DSL(デジタル加入者回線)を利用します。大企業では、光ファイバケーブルを使って、100メガバイト毎秒またはそれ以上の通信速度を得ています。もちろん、ユーザーは、無線通信でクラウドコンピューティングサービスにアクセスすることもできます。

クラウドコンピューティングの特長の概要

クラウドコンピューティングの特長の概要

米国の国立標準技術研究所(NIST)は、クラウドコンピューティングの特長を5項目にまとめています。これは、企業や個人ユーザーにとって、クラウドが興味深いモデルであるのはどんな場合なのか、というヒントでもあります。

オンデマンドセルフサービス: ユーザーは、セルフサービスの原則に従って、ソフトウェア、サーバ、その他のサービスを注文します。この注文は、インターネットポータルを通じて行います。

リソースプーリング: ユーザーは、クラウドデータセンターにあるシステムやサービスを共同利用します。すなわち、他の顧客と同時に、各ユーザーは、サーバ、データベース、あるいはストレージシステムの一部を利用します。これは、仮想化と呼ばれる技術によって実現しています。もちろん、顧客の個別領域は、他の顧客の領域とは厳重に分離されています。

迅速な順応性: クラウドサービスは、自動的にユーザーのニーズに順応します。たとえば、サーバ台数の追加、より高性能なサーバへの拡張、Officeライセンスの追加を注文することができます。このオンデマンドモデルにより、ユーザーは、自宅または自社内でITシステムをインストールしなくても、IT環境を実際のニーズに適合させることができます。

利用量に応じた課金: クラウドコンピューティングサービスは、従量制サービスと言われています。サービスプロバイダーは、顧客が利用したサービスおよび容量を詳細にチェックして、それに従って料金を請求します。このため、クラウドサービスプロバイダーは、時間毎または分毎の料金を定めています。

広い範囲からのネットワークアクセス: クラウドサービスは、普通のオープンネットワーク、できればインターネットから、アクセスできます。すなわち、ユーザーは、特別なツールを必要としません。

クラウドコンピューティングが利用される分野

クラウドは、ハイテク業界や通信会社だけのものでしょうか。クラウドは、すべての人のためのものです。そして、すべての人がそのメリットを享受できます。

個人ユーザー

個人も、かなり前からクラウドサービスを利用しています。EUの統計担当部局であるユーロスタット(Eurostat)によれば、2016年には、インターネットユーザーの約3分の1がクラウドコンピューティングを利用しており、その数は増加しています。スウェーデンは、他の国よりもずっと先へ進んでおり、全ユーザーの半数以上がクラウドにデータを保存しています。予想どおり、概して若いユーザーがクラウドサービスのメリットに好意的です。米国の調査では、2017年に18~29歳のユーザーの60%以上がクラウドを利用しています。これに対して、60歳以上でこのサービスを利用しているのは、約15%だけです。

個人は、クラウドからどのようなメリットを受けられるのでしょうか。ユーザーの大多数は、クラウドサービスの利便性に好印象を持っています。その例として、どこからでも画像、文書、音楽、映画へアクセスできること、どんなデバイスでも家族、友人、同僚とデータを共有し編集もできることが挙げられます。多くの場合、クラウドストレージは、あまり高価ではありません。多くのプロバイダーでは、ユーザーにストレージ容量を無料で提供しています。しかし、個人ユーザーのデータ容量が大きくなると、この無料ストレージをすぐに使い切ってしまいます。

企業

個人ユーザーだけでなく、多くの企業もDropbox、OneDrive、その他のサービスのクラウドサービスプロバイダーの顧客になっています。クラウドは、とくにスタートアップ企業や新興企業にとって、自前主義に対する有効な代替策です。最近まで、オンラインサービスや新しいアプリのように有望なビジネスのアイデアがあれば、サーバ、オペレーティングシステム、ストレージシステム、Officeライセンスのために多額の予算が必要でした。その他に、このシステムをセットアップして管理するスタッフの費用も必要でした。

このような初期コストによって気力がくじかれてしまい、有望なプロジェクトの芽がつみ取られる場合がありました。しかし、今では、スタートアップ企業は、手頃かつ計算可能なコストで、IT環境全体をクラウドから入手できます。アマゾン ウェブ サービス(AWS)、グーグル、マイクロソフトのようなクラウドサービスプロバイダーは、特にスタートアップ企業向けに、重要なクラウドコンピューティングサービスの特別パッケージをすでに提供しています。これにより、若い起業家たちは、大規模な準備をしなくても事業を始められます。

特に複雑な要件にも対応可能です。たとえば、ビッグデータの分析は、ますます多くの企業で成功へのカギになっています。しかし、中小企業の大部分は、十分なストレージまたは計算能力を持っていません。クラウドプロバイダーは、巨額の投資を必要としないさまざまなサービスモデルを提供して支援しています。その結果として、クラウドコンピューティングは、ビッグデータ解析で成功するための手段になっています。

この状況は、人工知能(AI)システムの開発でも同様です。そのため、多数のプロバイダーが、クラウドベースのAIサービス、たとえば機械学習とそれに必要なすべての計算能力を含めたサービスを顧客に提供しています。

調査対象の企業は、近年、クラウドコンピューティングに好意的で、関心を持つようになってきました。
「funk」は、クラウドからOffice製品、電話、ストレージのデータをフェッチします

「funk」は、クラウドからOffice製品、電話、ストレージのデータをフェッチします

funkは、ドイツの放送局ARDおよびZDFが提供する若者向けオンラインメディアであり、その社内のインフラをパブリッククラウドに変更しました。funkには問題がありました。急速に増加する従業員が、さまざまなOffice製品やチャットツールのように多くのツールを使っていました。その上、funkでは、決まった就業時間がありませんでした。すなわち、従業員が在宅勤務もできなければなりません。

このような理由で、funkは、古いソフトウェアを捨てて、マイクロソフトのパブリッククラウドサービスOffice 365を使うことにしたのです。今では、テレビ会議や電話にはSkype for Businessを利用しています。同僚と迅速に情報を共有するため、funkの従業員は、チャットソフトウェアMicrosoft Teamsを使っています。データや文書も、OneDrive for Businessによってクラウドに保存されます。従来のOfficeアプリケーション、たとえばWord、Excel、PowerPointも利用できます。

クラウドによるメリットの一つは、新しい従業員を作業環境に入れるのにほとんど手間がかからないことです。Office 365のライセンスを追加するだけで十分です。従業員は、たとえば仕事部屋や空港のようにどこからでも、クラウドにあるアプリケーションやデータにアクセスできます。

インダストリー4.0

インダストリー4.0は、クラウドコンピューティング利用において非常に重要な分野です。この用語は、サプライチェーン全体、すなわちITシステム、機械、製品、倉庫、輸送システムのネットワーク化を意味します。さらに、センサーや計測機器のようなコンポーネントは、IoT(モノのインターネット)を経由して相互に接続されています。これにより、部品が摩耗して故障しそうになったら、機械が自分で助けを求めることができます。作業用材料を収容した輸送コンテナは、材料がなくなりかけたら報告します。その結果として、プロセスは大幅に自動化されます。

しかし、多くのものがネットワーク化されると、多くのデータが生成され、それを収集し、処理し、評価しなければなりません。そこで、大きい計算能力とストレージ容量を持ったクラウドの出番です。企業は、シーメンスやボッシュのようなオートメーション専門会社のクラウドプラットフォームを利用して、データの評価を行います。このようなIoTクラウドは、企業のデータセンター内にプライベートクラウドとして設置することもできます。

しかし、それは、機械やコンテナから得られたデータをクラウドで処理するだけではありません。たとえば、ボッシュは、IoTクラウドを使って、自動車のソフトウェアを更新することを計画しています。制御システムおよび通信機器は、携帯電話ネットワーク経由で更新データを取得します。これにより、自動車の所有者は、修理工場まで行かなくてもすみます。メーカーは、この方法によって、車両に新しい機能を組み込むことができます。

行政

公的な施設や機関も、たとえば計算能力、ストレージ容量、アプリケーションの柔軟な提供を受けることによって、クラウドのメリットを享受することができるはずです。「できるはず」というのは、実際には、まだそうなっていないからです。アマゾン ウェブ サービスによれば、米国では、約2,300の公的機関および非営利組織が、同社のクラウドサービスを利用しています。その一方で欧州では、アマゾン ウェブ サービスの公共部門の顧客は、ニュルンベルク空港、および欧州宇宙機関(ESA)の関連団体だけです。

クラウドサービスのメリット

クラウドコンピューティングには、個人に対してもいくつかのメリットがあります。たとえば、文書、画像、動画をオンラインのクラウドストレージに保存できます。選択したクラウドプロバイダーが、明らかに評判が良く厳格なデータ保存を保証しているならば、このような情報は、自分のコンピュータやフラッシュドライブよりもセキュアな状態でクラウドに保存できます。フラッシュドライブを紛失したり、ハードディスクが完全に壊れたりしたら、データは消失します。クラウドサービスプロバイダーは、顧客のデータを複数の地理的に離れたデータセンターに保存します。一方のデータセンターが故障しても、情報はまだ利用可能です。ユーザーは、スマートフォン、タブレット、デスクトップコンピュータ、どのような機器を使っていても、どこからでもデータにアクセスすることができます。また、友人や家族のように他のユーザーとデータを共有できます。

企業にとって重要なメリットの一つは、クラウドコンピューティングによって、ハードウェアおよびソフトウェアに対する投資の大部分が不要になることです。たとえば、WordやExcelをクラウドから利用すれば、自社のサーバ、管理ソフトウェア、データベース、Officeパッケージを用意せずにすみます。

また、クラウドサービスは、必要なだけ注文することができます。たとえば、中規模企業で製品の需要が増えたために、サーバを2台、6ヵ月間追加する必要があるとすれば、それをクラウドから調達できます。そして、後で返却、すなわち、利用を終了できるのです。しかし、システムを購入したりリースしたりすれば、必要がなくなっても、容易に処分することはできません。

クラウドコンピューティングには、その他のメリットもあります。プロバイダーのサーバがどこに存在するかにもよりますが、高レベルのデータセキュリティが得られます。信頼できるクラウドサービスプロバイダーであれば、通常はデータの定期的バックアップを取っています。クラウドデータセンターのセキュリティ対策も、多くの場合、企業のデータセンターよりも優れています。

課題とセキュリティ

クラウドコンピューティングの課題は何でしょうか?

ユーザーは、クラウドコンピューティング利用を決める前に、それに関連するリスクに注意しなければなりません。たとえば、一つのサービスプロバイダーに依存することは、問題となる可能性があります。DropboxやOneDriveに保有するデータが、すべて個人的な写真や音楽のコレクションであれば、あまり大きな問題ではないかもしれません。データをオンラインストレージからダウンロードして、別のプロバイダーのストレージシステムにアップロードすれば良いでしょう。面倒で時間がかかりますが、致命的な影響はありません。

しかし、企業の場合、状況は異なります。データベースおよびアプリケーション環境全体を別のクラウドサービスプロバイダーに変更することは、とても大変なことです。それには1つ問題があるからです。一部のプロバイダーは、データのインポートおよびエクスポートに、独自の非標準インターフェイスを使っています。これは、プロバイダーの変更を困難にします。また、クラウドへ移行すると、社内のIT専門家がいなくなります。これによっても、1つのプロバイダーへの依存度が強くなります。

もう1つのリスクは、企業も含めてユーザーは、技術的、組織的または契約上の理由により自分のデータにアクセスできなくなる可能性があります。要するに、クラウドプロバイダーが倒産したり、契約の期限が切れたり、契約が変更されたりすることがあります。したがって、あらかじめ代替措置を検討しておくことが重要です。特に企業の場合は、緊急時に重要なデータをクラウドから取り戻す方法について、プロセスの初期の段階で検討する必要があります。

また、多くのクラウドサービスは、特別な要望に対して、限られた範囲でしか応えてくれません。既製品でなくカスタマイズされたソリューションを必要とする企業は、各サービスについて十分詳しく検討する必要があります。ヨーロッパではBechtle、Cancom Pironet、QSCのようなシステムハウスが、導入の支援をしています。有料でカスタマイズ作業を実施します。

大部分の企業は、企業の機密データへの不正アクセスを恐れて、パブリッククラウドソリューションを利用していません。

企業が迅速かつ柔軟にデータにアクセスできるようにするためには、長期的に見れば、クラウドコンピューティングとともにもう一つの革新的テクノロジーである未来の5Gモバイル規格も同時に導入することが重要です。5Gは、現在のLTEネットワークの100倍高速な通信速度を実現します。データのアップロード、ダウンロードをきわめて高速に実施できます。また、クラウド利用の選択肢を拡大できます。通信プロバイダーのファーウェイ(Huawei)は、5Gを使ったライブストリーミング製品の開発と改良を計画しています。

クラウドコンピューティングはどれくらいセキュアなのでしょうか?

多くのユーザーにとって、クラウドコンピューティング環境でのデータおよびアプリケーションのセキュリティは、きわめて重要です。KPMGおよびBitkom Researchの調査によれば、パブリッククラウドを利用していないドイツ企業の約60%が、自社データへの不正アクセスを心配しているとのことです。クラウド懐疑派の半数以上は、データ消失の可能性がクラウド利用の障害だと考えています。

機密データをクラウドに置いたときにセキュリティが重要であることは、間違いありません。ISO認証、ユーロクラウド協会やクラウドエコシステムのようなクラウド認証は、クラウドサービスプロバイダーがどれだけ真剣にセキュリティに取り組んでいるかを示しています。このような認証は、厳しいセキュリティ規格に適合していることが証明されたサービスプロバイダーにのみ与えられます。ここで助言を1つあるとすれば、クラウドサービスを申し込む場合、そのクラウドサービスプロバイダーが、どのようなセキュリティ認証および品質認証を取得しているか、そしてその認証を定期的に更新しているかどうかを確認すると良いでしょう。

なぜならば、過去にサイバー犯罪者がクラウドサービスプロバイダーのシステムを攻撃して、場合によっては、悲惨な結果になったことがあるからです。クラウドプラットフォームでオンラインサービスを提供しているYahooのデータ漏洩は、多くの注目を集めました。ハッカーは、ユーザー30億人分のデータ、名前、Eメールアドレス、電話番号、誕生日、パスワードを盗みました。この事件の場合、機密データの流出は、重大というだけではすまない問題です。サイバー犯罪者が入手した多数のパスワードから、さらにユーザーの好みがわかってしまいました。すなわち、どのようなパスワードあるいは文字列を好んで使うか、ということです。これによって、今後のサイバー攻撃がさらに容易になってしまいます。

したがって、深刻な場合には、たった1つのハッカー攻撃は、それだけでも大変なことになるのです。しかし、このYahooの事例だけで、すべてのクラウドプロバイダーがダメだと判断するのは間違っています。ある調査では、米国企業の22%が、クラウドコンピューティングの最も重要なメリットは、効率やIT資源の拡張性よりも、クラウドサービスのセキュリティが高いことであると回答しています。信頼できるプロバイダーは、定期的パッチを実施し、きわめて効率的なサイバー防衛センターを設置して、クラウド上のデータを攻撃から保護しています。

調査対象企業の41%が、過去12ヵ月間に社内ITシステムでデータセキュリティインシデントが発生した、または少なくとも発生した疑いがある、と言っています。これに対して、パブリッククラウドソリューションでは、合計32%であり、より少なくなっています。

クラウドコンピューティングの最大のセキュリティリスク

クラウドコンピューティングサービスを利用する個人および企業は、サービスプロバイダーが提供する高度なデータ保護およびセキュリティ方策によるメリットを受けています。しかし、クラウドサービスのユーザーが注意するべきリスクがいくつかあります。

LinkedInの情報セキュリティコミュニティの調査によれば、ITセキュリティ専門家の60%以上が、ハッカーまたはクラウドサービスプロバイダーの悪意ある従業員によって、データを盗まれることを心配しています。その結果として、ユーザーは、重要なビジネス上のデータを失う場合もあります。NSA(米国の国家安全保障局)の活動に関する議論では、政府機関が、無断で、企業および個人ユーザーの秘密情報を閲覧したり収集したりできることが明らかになっています。多くの場合、クラウドユーザーが何らかの対策を取るとすれば、クラウドに置くデータを暗号化するという方法があります。ユーザーは、データ転送時にデータがプレーンテキストのままで表示しないように注意しなければなりません。

ハッカーがユーザーのアクセス情報を入手したならば、それは危険な状態です。データを盗んだり改ざんしたりできるからです。多くの場合、このような攻撃は、しばらくの間、気がつかないままになっています。ユーザーの異常行動を報告するITセキュリティソリューションを利用するように、従業員に対して定期的に指導することが重要です。

クラウドサービスプロバイダーは、厳格なセキュリティおよびコンプライアンス基準を守らなければなりません。EU加盟国では2018年5月以降、その基準に、「EU一般データ保護規則(EU GDPR)」が加わりました。クラウドプロバイダーがこれらの基準に違反していると、データが消失したり、第三者に見られたりするおそれがあります。その場合、多額の罰金が課せられて信用を失うのは、プロバイダーだけではありません。そのサービスのユーザーにも責任があります。データ保護の責任をプロバイダーに転嫁することはできません。

脆弱なパスワード、多要素認証の不使用、パスワードや証明書の取扱不注意は、ハッカーの活動を容易にします。したがって、クラウドコンピューティングサービスのプロバイダーおよびユーザーは、データやアプリケーションに対する不正アクセスを効果的に防止するセキュリティソフトウェアを利用しなければなりません。プロバイダーのセキュリティ機能をあらかじめ確認しておくと良いでしょう。

API(アプリケーションプログラミングインターフェイス)は、企業のITシステムとクラウドの間の接続を実現するものです。したがって、そこにはセキュリティの欠陥があってはなりません。特にクラウドサービスは、公共のインターネット接続を経由してアクセスされるものだからです。

サービスプロバイダーの従業員(インサイダー)による攻撃は、特に危険です。管理者など強力なアクセス権限を持つユーザーの場合、ことのほか危険です。KPMGの調査によれば、ドイツ企業におけるデータ盗難事件の20%が、インサイダーによるものです。したがって、管理者ユーザーグループの利用行動を確認することが重要です。

ハッカーが乗っ取った多数のコンピュータからの要求が、クラウドサービスに大量に送り込まれると、サービスを停止させてしまう場合があります。プロバイダーは、ネットワークのトラフィックを監視したり、保護システムを利用したりして、対策を取らなければなりません。

クラウドのITおよびネットワークシステムには、セキュリティ上の欠陥や弱点が存在する可能性があります。したがって、クラウドサービスのユーザーは、プロバイダーが定期的に弱点をスキャンし、できるだけ迅速にソフトウェアパッチを適用しているかどうかを確認するべきです。

クラウド利用時のセキュリティのヒント

クラウド利用で問題が発生しないようにするためには、利用者は、いくつかの基本的ルールを守る必要があります。

クラウドユーザーにとって最も重要なことは、データがどこに保存されるかを知っておくことです。これは、次の理由によるものです。クラウドサービスは、情報をさまざまなデータセンターに保存します。それは外国にあるかもしれません。個人情報やビジネス上の重要情報が含まれると、データ保護法令違反になる場合もあります。したがって、多くのクラウドサービスプロバイダーでは、顧客が自分のデータを保存するデータセンターを、たとえばドイツのセンターというように選択できるようにしています。

データの暗号化も重要です。アマゾン ウェブ サービスの最高技術責任者(CTO) Werner Vogels氏は、この方策を推奨しています。「暗号化して、暗号化して、さらにまた暗号化してください」と警告しています。特に高度なセキュリティ要件のある企業では、暗号化ハードウェア(ハードウェアセキュリティモジュール、HSM)を利用すると良いでしょう。パブリッククラウドでのデータ暗号化については、特にドイツ企業は遅れをとっています。ウイルス対策の専門会社Bitdefenderの調査によれば、この種の情報を暗号化しているのは、9社に1社だけです。

個人ユーザーも、Dropbox、OneDrive、Googleドライブに秘密データを置くときは、まず暗号化しておく必要があります。その場合には、ドイツのプロバイダー、Secomba社のBoxcryptorのようなツールを利用すると良いでしょう。

バックアップの専門家は、重要なデータはクラウド環境だけに保存しないことを推奨しています。確かに一般的には、クラウドプロバイダーは、バックアップを取っているので、データが消失するのはきわめてまれな場合だけです。それでも、定期的に自分でバックアップを取って、自宅または自社データセンターに少なくともそのコピーを保存することが推奨されます。

その他の重要なセキュリティ対策としては、従業員の認証があります。許可された人だけが、クラウドにあるデータや資源にアクセスできるようにするべきです。多要素認証を使えば、セキュリティをさらに強化できます。これは、ユーザー名とパスワードを入力するだけでなく、他の確認を実施して初めて、ユーザーが、クラウドへアクセスできるというものです。そのためには、スマートフォンへ送信されるPINを使う方法もあります。

モデルとアプリケーション

クラウドコンピューティングのさまざまな種類とサービス

クラウドで不可能なことはありません。たしかに、これはちょっと大げさに聞こえます。しかし、実際には、クラウドプロバイダーのアプリストアやマーケットプレイスには、何千ものサービスが提供されています。たとえば、最大のクラウドサービスプロバイダーであるアマゾン ウェブ サービスのマーケットプレイスでは、2017年時点で、ありとあらゆる目的のソフトウェアをはじめとして、ストレージシステムおよびサーバ、さらにはスーパーコンピュータによるストレージ容量まで、35のカテゴリで5,000以上のサービスが提供されています。

量子コンピュータの試作機やシミュレータ、未来の高性能コンピュータも、クラウドで利用可能です。たとえば、IBMは、自社のクラウドコンピューティング環境を通じて、このようなコンピュータへのアクセスを科学者に提供しています。専門家は、このシステムを使って、実験やソフトウェア開発を実施できます。

しかし、市場調査会社KPMGおよびBitkom Research社の調査によれば、ドイツの大部分の企業は、クラウドサービスを従来のシステムと同様に使っています。特に、Officeおよびセキュリティアプリケーションをクラウドで利用しています。Eメールサービス、グループカレンダー、コラボレーションアプリケーションも非常に多く使われています。ドイツのカッセルにある市場調査会社 Techconsult社によれば、多くのドイツ企業は、特にサービスとしてのインフラ(IaaS)、すなわちサーバおよびストレージシステムを活用しています。これらのサービスの売上額は、2019年までに2倍になると予測されています。

クラウドサービスは、いくつかのカテゴリに分類されます。分類の中でも重要な2つを示します。

サービスモデル:ユーザーがクラウドで購入するサービスの種類を示します。たとえば、サーバ機能、クラウドストレージです。

デプロイメントモデル:クラウドサービスのデータがどこから出てくるか、どこに保存されているか、を示します。外部のサービスプロバイダーのクラウドデータセンターを複数のユーザーが共同利用する場合、パブリッククラウドと呼ばれます。自社独自のデータセンターにデータが保存されている場合、プライベートクラウドと呼ばれます。

クラウドコンピューティングのサービスモデル

ユーザーは、いくつかの種類の「サービスとしての何か」を選ぶことができます。サービスモデルは、特徴による分類基準です。

IaaSでは、クラウドサービスプロバイダーが昔ながらのITシステムを提供します。それは、サーバ、ストレージシステム、ネットワークコンポーネントです。事実上、顧客は、計算能力(サーバ)およびデータ保存用スペースをレンタルしていることになります。この他に、ネットワークサービス(接続)という分野もあります。

ユーザーは、クラウド上のサーバで、自分で選んだオペレーティングシステムとアプリケーションを実行します。たとえば、さまざまなバージョンのWindowsやLinuxを選べます。最も安価なIaaSは、サーバのように物理的なシステムを複数のユーザーで共同利用するものです。各ユーザーは、他のユーザーの仮想サーバと同一のハードウェア上に存在する仮想サーバを利用します。それではセキュリティが不十分だという場合には、ユーザーは、追加料金を払って自分専用のサーバシステムを注文できます。

しかし、IaaSを利用するならば、クラウド上のシステムを自分でセットアップして管理しなければなりません。この作業は、自社のIT部門で実施するか、またはユーザーが外部のサービスプロバイダーに依頼して実施してもらうか、のいずれかになります。

PaaSのユーザーは、インフラを自分自身でセットアップする手間を省いています。これは、1段高いレベルに昇ったということができます。クラウドコンピューティングプロバイダーは、インフラ全体を用意し、さらにプラットフォームに対して標準化されたインターフェイスを提供します。ユーザーは、そこに自分のアプリケーションを「ドッキング」することができます。そのメリットは、ユーザーが自分のアプリケーションの作成と管理に専念できることです。たとえばハードウェアの準備、限度容量の検討、システムソフトウェアの保守、セキュリティパッチの適用のように面倒な作業は、プロバイダーが対応してくれます。

重要なのは、サービスプロバイダーは、標準化されたインターフェイスとツールを提供するということです。ユーザーはそれを使って自分のソフトウェアをクラウドプラットフォームに接続します。このようにして、そのソフトウェアは、特定のプラットフォームに依存しないものにすることができます。

SaaSのカテゴリに入るものとして、ユーザーがクラウド経由で購入するアプリケーションがあります。利用できるソフトウェアは、ほぼ限りなくさまざまな種類のものがあります。たとえば、eメールサービス、顧客関係管理(CRM)ソフトウェア、会計ソフトウェア、チャットプログラム、ネットワークおよび機器を保護するソリューションです。ほぼ会社全体の機能をクラウドに移行できそうです。一部のクラウドプロバイダー、たとえばマイクロソフト、Zoho、Salesforceは、連携サービスを提供しています。

近ごろでは、アプリケーションだけではなく、職場環境全体をクラウドで利用できるようになっています。そのメリットは、従業員がなじみのあるデジタル作業環境、すなわちOfficeのソフトウェアからCRMツールに至るまで、あらゆるツールに、あらゆる場所からアクセスできることです。

また、SaaSのメリットの一つとして、ソフトウェアライセンスの数をユーザーの必要数に応じて調整できることです。50人分のOffice 365が必要ならば、多くもなく少なくもなく、ちょうど50ライセンスを注文できます。事業が好調で従業員が増えれば、ライセンスを追加すれば良いのです。

クラウドコンピューティングのデプロイメントモデル

IaaS、SaaS、PaaSというサービスモデルの他に、クラウドコンピューティングにはもう一つの分類があります。サービスを提供する方法、すなわち、どのようなプロビジョンプロセスが使われているかによる分類です。

アマゾン ウェブ サービス、Microsoft Azure、Telekom Cloudのサービスを利用しているのであれば、パブリッククラウドの中にいることになります。このモデルでは、サービスプロバイダーの提供するIT資源を複数のユーザーまたは企業が共同利用します。ユーザーデータは、この外部のクラウドデータセンターに保存され処理されます。パブリッククラウドのメリットとしては、あまり多額の出費を必要とせずに、より多くのサーバやソフトウェアライセンスを利用できることがあります。サービスプロバイダーは、顧客の要求に応じてその資源を提供します。

しかし、この柔軟性が思わぬ障害になります。パブリッククラウドは、特別な要件に合わせて設計されているのではありません。ユーザー全員が一つの「既製品」を利用します。しかし、オーダーメイドよりも安価です。もう1つユーザーが注意するべき点があります。パブリッククラウドに送り込んだデータの保護です。しかし、今では、多くのパブリッククラウドは、秘密情報を、ドイツでは1つのデータセンターに集中して保存するオプションを提供しています。

プライベートクラウドは、本物のクラウドでしょうか?これは、容易には答えられない質問です。この種のクラウドは、ある程度は、プライベート機能のようなものであり、自社のデータセンターに設置されています。その企業の従業員とパートナーだけが、クラウドサービスにアクセスできます。

批判的な人が、プライベートクラウドは、実際には昔ながらのデータセンターサービスが少し名前を変えただけである、と言うのも驚くべきことではありません。このような懐疑論者は、完全に間違っているわけではありません。要するに、プライベートクラウドは、必要に応じてアプリケーションやインフラサービスを注文できるオプションを、ごく限られた範囲で提供しています。それが限られているのは、データセンターのサーバやストレージシステムの能力によるものです。

それにもかかわらず、KPMGおよび Bitkom Research社の調査によれば、ドイツ企業の約半数は、プライベートクラウドを利用しています。その理由の一つは、自分のデータを管理できなくなることを恐れているからです。プライベートクラウドは、多くの場合、パブリッククラウドよりもセキュアであると言われています。

進歩的でありながら慎重なユーザーのためには、第3の変種があります。ハイブリッドクラウドです。その名のとおりです。データやアプリケーションの一部は、自社のデータセンター、すなわちプライベートクラウドに残っています。その他のデータは、パブリッククラウドに送り込まれています。マイクロソフトやVMwareのようなクラウドプロバイダーは、アマゾン ウェブ サービスと協業して、ハイブリッドクラウドを容易に構築できるようにしています。事前に構築されたシステムをプロバイダーが提供しているので、企業は、それを使ってプライベートクラウド環境をセットアップできます。プライベートクラウド経由で、マイクロソフトやアマゾン ウェブ サービスのパブリッククラウドに接続するためのインターフェイスも用意されています。

ハイブリッドクラウド環境は、パブリックまたはプライベートクラウドと同じクラウドサービス、すなわち、サービスとしてのソフトウェア(SaaS)、プラットフォームサービス、さらに計算およびストレージ機能(IaaS)を提供します。市場調査専門会社Crisp Researchによれば、現在、ドイツ企業の約44%が、ハイブリッドクラウドが好ましいと思っています。また、47%が、2020年時点での展開および利用モデルとして好ましいのは、ハイブリッドクラウドであると見ています。

概要

クラウドコンピューティングが未来を約束された手段である理由

一つ確かなことがありあます。現時点での問題は、クラウドコンピューティングを利用するかどうかではなくて、どのように利用するかである、ということです。結局のところ、機械製造業や小売業の会社の主要業務は、データセンターを運営することではありません。そのような企業は、信頼性の高い装置を生産したり、魅力的な商品を顧客に提供したりすることを目指しています。また、ビッグデータ分析の重要性が高まるにつれて、企業のIT環境の少なくとも一部分を「サービスとして」 購入することが現実的になっています。

しかし、これは、社内のIT専門家が失職することを心配しなければならない、という意味ではありません。クラウドの時代には、IT専門家にとって十分すぎるほどの業務があります。たとえば、社内のITシステムをクラウドサービスに接続することです。新しいデジタル製品のアイデアを生み出して、デジタル時代に適合した企業にならなければなりません。検討対象の一部にクラウドが含まれていれば、このような業務を容易かつ迅速に遂行できます。最後に重要なことですが、未来の高速携帯電話ネットワーク 5Gは、クラウドにおいても、より安定的でより高速な接続を実現します。

最重要点がすぐわかるQ&A

クラウドコンピューティングとは、ITサービスをインターネット経由で提供することです。すなわち、サーバ、ストレージ、計算能力、データベース、ソフトウェアを提供することです。ユーザーは、必要なサービスを選んで、直ちに利用することができます。利用量に応じた料金を支払います。その結果、ハードウェアやソフトウェアに投資する必要がなくなります。これによって、クラウドコンピューティングは、企業だけでなく、写真や音楽のバックアップをクラウドに保存したい個人ユーザーにとっても、人気のあるソリューションになりました。

クラウドコンピューティングは、もはや大手ハイテク企業向けのツールではありません。個人ユーザーや小規模な企業にもメリットがあります。特に、スタートアップ企業にとっては、高度な柔軟性のあるITソリューションをより安価に利用できる、まったく新しい選択肢となっています。また、製造業においても、より多くの計算およびストレージ能力が必要になっています。機械、システム、輸送手段のネットワーク化というトレンドにより、大量のデータを収集して評価する必要性が生じているからです。近ごろでは、たとえば米国でも、公的機関がクラウドを利用するようになっています。

クラウドコンピューティングには、多くのメリットがあります。ニーズにぴったりと合致したサービスを注文することができます。すなわち、高度な柔軟性があります。サービスの利用量に応じた料金を支払うので、コストを容易に計算できます。多くのデータセンターでは、企業独自のデータセンターよりも、高度なデータ保護が得られます。個人ユーザーにとっても、文書、写真、動画をクラウドに置くほうがよりセキュアになります。クラウドプロバイダーが定期的にバックアップを取ってくれるからです。クラウドに置いたデータは、フラッシュドライブのように消失しません。

メリットがある一方で、クラウドコンピューティングには心配なこともあります。特に、オーダーメイドのITソリューションを必要とする企業にとっては、多くの場合、より多くのコストがかかります。多くの人々にとっては、セキュリティの問題が障害になります。なぜならば、過去にサイバー犯罪者がクラウドサービスプロバイダーのシステムを攻撃して、ある場合には、悲惨な結果になったことがあるからです。セキュリティに関するいくつかの注意事項には、必ず従うべきです。選択したプロバイダーは、適切な認証を受けていますか。データは、どの国に保存されますか。データ保護法令は、国によってかなり違いがあります。データを暗号化すること、そして、パスワードおよびアクセス権限の取扱に注意することも重要です。

クラウドサービスには、さまざまなサービスモデルがあります。「サービスとしてのインフラ(IaaS)」、「サービスとしてのプラットフォーム(PaaS)」、「サービスとしてのソフトウェア(SaaS)」の中から選ぶことができます。また、プロビジョニングにもさまざまな方法があります。プライベートクラウドでは、サービスは、企業の自社データセンターから提供されますが、パブリッククラウドでは、外部のプロバイダーから提供されます。ハイブリッドクラウドは、この2つの方式をインターフェイスを通じて結合したものです。

将来には、クラウドコンピューティングによって、多くの企業がITサービスの少なくなくとも一部をアウトソーシングして、主要事業に専念できるようになっているでしょう。専門家がするべきことは、たくさん残っています。たとえば、クラウドサービスを企業独自のシステムと結合しなければならないからです。しかし、デジタルの時代になって、きわめて大量のデータを企業が処理するようになると、クラウドサービスを避けて通ることはできないでしょう。すなわち、将来的に、クラウドコンピューティングの利用は増加すると見込まれます。

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