バッテリー マネジメント システム - バッテリーの管理

バッテリーの物理的な原理は数百年の間、変わっていません。その一方で、再充電可能バッテリーの充電時間、充電容量、耐久性に対するニーズは強まる一方です。バッテリー マネジメント システム (BMS) は今日のバッテリーに対するニーズに対応するため、バッテリーの入出力、モジュール、パッケージを制御するのに用いられています。そのため、BMSはバッテリーの安全性、電力、耐久性を維持する主要コンポーネントとなっており、特に高電圧の分野で重要視されています。バッテリー マネジメント システムの目的とアプリケーションについて説明するために、まずはバッテリーの基本原理をよく見ていきましょう。

バッテリーとは

腕時計の中の小さなボタンバッテリー、コードレス型のドリルや最新の自動車の電源など、バッテリーは数世紀にわたり、電力を消費する場所に直接供給することを可能にする蓄電装置として使用されてきました。バッテリーの一番大きなメリットは損失がほとんどなく蓄電できる点と、携帯性を活かして「外出先での電力」を確保できるフレキシビリティにあります。バッテリー (battery) の原義は「複数の部分から構成されるもの」です。バッテリーは複数のガルバニック セルを相互に接続することで電力が蓄えられます。接続するセルの数と種類によって、各セルの相互接続が生み出すバッテリー容量、すなわちアンペア時 (Ah) で表される充電量が異なります。一度完全に放電したら電力がなくなるタイプのバッテリーを一次バッテリーと呼びます。充電することで電力が戻るタイプのバッテリーを二次バッテリーと呼びます。

バッテリーのしくみ

現在、さまざまな形状と種類のバッテリーが市場に出回っています。しかし、バッテリーの動作原理は1780年にルイジ ガルバーニが発明して以来、まったく変わっていません。亜鉛などの卑金属から放出されたイオンが電解質 (当初は酸を使用) を通って銅や銀などの貴金属に到達します。その結果、電子の流れが生まれ、それが電子デバイスに供給する電力となります。バッテリーの種類によって、使われる電解液などの化学組成は異なり、バッテリー特性に大きな影響を与えます。

市場に出回っているバッテリーの種類

アルカリマンガンバッテリ:

電解液を使用している現代のバッテリーの大半は前述のガルバニ バッテリーの原理で動作しています。その中でも商業的に最も成功した一次バッテリーがアルカリマンガン バッテリー、またはアルカリ バッテリーです。非常に低いコストで大量生産でき、懐中電灯や腕時計など、特に使い切りの用途で重宝されています。

リチウム イオン バッテリ:

数ある再充電可能バッテリーの中で最も普及しているのがリチウム イオン バッテリーです。「リチウム イオン」にはさまざまな派生バッテリーがありますが、いずれも充電回数が多く、電力効率の損失が少ないのが特長です。

LiFePO4:

今もっとも人気のあるのがリン酸鉄リチウム イオン バッテリー、略してLiFePO4です。このバッテリーはコバルト酸リチウムの代わりにリン酸鉄リチウムが使われており、電力密度が同程度なのに熱の発生が少ないという特長を持っているため、自然発火しません。また、新素材の採用で、以前知られていた「メモリー効果」が発生しなくなりました。LiFePO4再充電可能バッテリーは携帯電話やノートブックPCの平たい形状や普及している単3、単4再充電可能バッテリーの円筒形などに使われており、1997年に登場して以来、広く普及しています。

全固体バッテリ:

全固体バッテリーはさまざまな産業セクターで厳格化する安全要件に対応するため、近年、開発が進められているバッテリーです。これまでと異なる化学組成と構造を持っているため、電解液を使用したバッテリーよりも電力密度を高めることが可能です。自己放電の少なさ、圧力と温度の増減に対する堅牢性と耐性の高さを併せ持っており、従来型のバッテリーよりも大きな優位点があります。しかし、生産工程が比較的複雑なため、まだ大量生産には至っていません。 

高電バッテリ:

高電圧バッテリーは高いピーク性能が求められる用途に用いられます。内部は個々のバッテリー セルがモジュールに封止されており、直列に接続しているため、数百ボルトの電圧を供給できる高い性能を持っています。太陽光発電に加え、特に自動車製造で使用されています。通常、車両底部に設置され、トラクション バッテリーとも呼ばれます。

バッテリーの構造

バッテリーの構造には2種類の分類方法があります。1つ目はバッテリー セルの形状 (セル タイプ) で、2つ目は回路 (統合タイプ) です。セル形状で最も一般的なのは円筒型です。円筒型セルは製造しやすく、その形状と金属カバーにより、内側と外側からの機械的ストレスに強いのが特長です。高温になっても、伸縮量がパウチ型セルよりも少なくて済みます。

デメリットとしては円筒形を密に並べると隙間が多くなるため、他の形状よりもバッテリー パックの電力密度が低い点が挙げられます。円筒型セルには多くのバリエーションがあります。それらを整理するため、名称が規格化されています。この規格によると、よく知られている単3バッテリーの形状は「14500」セルとされています。左側2桁がセルの直径を、次の3桁が長さをミリメートル単位で表します。たとえば、単3ほど知られていない「18650」リチウム イオン セルは直径18mm、長さ650mmということになります。ちなみに、これは電気自動車用途で一般的に生産、使用されています。

パウチ型はパッケージした際に隙間が生じる問題がありません。コアの周りにコンポーネントを円筒状に並べるのではなく、好きなレイアウトで配列して圧縮し、アルミの外装でラミネートされています。さまざまな形状に仕上げることができ、低重量で大きな電力密度を持たせることができるのが特長です。その影響で物理的な圧力に弱いという欠点もあります。強い圧力にさらされ、使用期間が長くなると、3~10%膨張します。周りのコンポーネントを配置する際はその影響も考慮する必要があります。

プリズム状セルはフラットセルとも呼ばれ、実装面積が大きいという特徴を持っているため、薄いレイヤーを折り畳んだ構造になっています。プリズム状セルは非常に優れた温度特性を持っており、固体の金属ハウジングに封止することで機械的ストレスへの耐久力が生まれます。高い堅牢性と設置スペース効率を併せ持っているため、特に電気自動車の組立でよく使用されています。

自動車では高いバッテリー性能が求められるため、個々のバッテリー セルをインテリジェントな接続で拡張することにより性能を高めています。直列または並列で接続でき、各セルが1つのバッテリー モジュールを形成します。このモジュールは掃除機、コードレス スクリュードライバー、eバイクなど、家庭用機器に必要な電力を供給可能です。

さらに大きな電力が必要な用途には複数のバッテリー モジュールを組み合わせたバッテリー パックを使用し、家庭用の電力貯蔵システム、フォークリフト、さらには自動車にも利用できます。たとえば、ジャガー社のiPaceは12個のセルを組み合わせたバッテリー モジュールを36個搭載しています。動作電圧が高いため、各バッテリー セルとバッテリー パックのシームレスな連動を実現するのに最適な連携制御システムが必要になります。車載バッテリー要件に基づいて動作するバッテリー マネジメント システムは高電圧バッテリーの効率と寿命の向上にむけて、その役割の重要性が増しています。

 

バッテリー マネジメント システム (BMS) とは

リチウム バッテリーの寿命、効率、信頼性の最終的な鍵を握るのが、個々のセル、モジュール、パック間の連携の最適化です。バッテリー マネジメント システム (BMS) の主なタスクは異常動作からバッテリーを保護し、充放電を最適化することです。アクティブ バッテリー マネジメント システムは複数のコンポーネントを同時に使用するもので、スマートBMSとも呼ばれます。アクティブ バッテリー マネジメント システムの利点は老朽化や充電の状態、バッテリー モジュールの放電深度を監視できる点です。また、充電サイクルをスマートに制御し、スピード、熱管理、過充電を最適化することもできます。

 

バッテリー マネジメント システムのアプリケーション分野

インテリジェントなバッテリー マネジメント システムは急激に変化する供給電力とリチウム バッテリー システムの長寿命化の両方が求められる状況下で必ずその強みを発揮します。たとえば、建築技術分野におけるエネルギー生成/回生システムの制御がそれに該当します。モバイル家電製品や通信技術の分野でも、充電スピード、プロセッサ性能、バッテリー温度の最適制御は重要です。

バッテリー マネジメント システムの要件が特に厳しいのが車載セクターです。消費電力と出力の変動が極めて大きい上に、無停電電源 (UPS) も確保しなくてはならないからです。特にラスベガスのような炎天下やノルウェイのような酷寒の中で走行/充電する際、車載バッテリー マネジメント システムにとって、システムの最重要コンポーネントの無停電電源の制御はハードルが高いといえます。

電動自動車バッテリーは車両インフラとの統合度が高いため、インテリジェントな充電制御がバッテリーの長寿命化に不可欠です。電動自動車に充電する際、BMSの充電保護システムがバッテリーへの過充電を抑制し、バッテリー温度の不安定化や不可逆な化学反応を防止します。同時に、車載バッテリー マネジメント システムは放電保護の1つとして、バッテリー残量がほぼゼロならそのセルを使用しない機能を持っています。リチウム セルは深放電すると寿命が著しく短くなり、極端な場合、故障することもあります。

 

バッテリー サーマル マネジメントのメリット

バッテリー サーマル マネジメントはスマートなバッテリー マネジメント システムの中心的なコンポーネントです。周辺環境やバッテリー温度に基づいて、バッテリー システム内のエネルギーの流れを完璧に制御します。リチウム バッテリーの最適な動作温度は20~30℃に限られています。しかし、最新車両ではサーマル マネジメントのおかげで外気温が0~40℃でも非常によく充電できます。放電のほうは、最適制御すれば外気温が-20℃から60℃の範囲でも故障せずに行えます。

バッテリー サーマル マネジメントがセルをインテリジェントに制御して最適な動作温度を維持するのです。この温度範囲を超えてバッテリーを運用すると、すぐに寿命、充電可能回数、バッテリー セルの容量に致命的な影響が出ます。電動自動車では熱管理の最適化が特に重要です。車両インフラとの統合度が高いため、バッテリーが故障すると交換に高いコストが発生します。オーバーヒート、さらには引火すると車両全体に深刻な結果を招きます。スマートなバッテリー マネジメント システムで熱管理することはバッテリー寿命の維持につながるだけでなく、日常の安全性にも不可欠なのです。

 

バッテリー マネジメント システム分野のイノベーション

リン酸鉄リチウム イオン バッテリー (LiFePO4) は1990年の登場以来、大きな進化を遂げました。特に各種バッテリー マネジメント (BMS) の分野では現在、世界各国で開発が進められています。

AI BMS (人工知能バッテリー マネジメント システム) と呼ばれるBMSではバッテリーに自己学習アルゴリズムが搭載されています。バッテリーはビッグデータから航続距離の最適化に必要な情報を取得します。バッテリーの健全性を数値的に監視するため、EIS (電気化学インピーダンス スペクトロスコピー) が使用されており、急速充電中のセル性能の推測とセル損傷の早期発見に役立っています。インフィニオンでは既にこうした機能を搭載した製品シリーズを提供しています。

プログラマブル バッテリー マネジメント システム (プログラマブルBMS) は温度の値、セルの健全度、性能データなどのバッテリー データの監視と評価が可能です。将来的には、ワイヤレス バッテリー マネジメント システム (ワイヤレスBMS) が登場し、セル同士が無線で接続されるようになるでしょう。そうなると必要なケーブル数が減るので重量が低減し、アクセスしづらい場所との配線も容易になります。

インテリジェントなバッテリー管理はまだ始まったばかりです。インフィニオンはこの開発に積極的に取り組んでおり、すでに業界をリードするソリューションを提供しています。自動車、太陽光電力、消費者製品用途のソリューションはバッテリー マネジメント システムのセクションに整理されています。