「ドイツ未来賞」にノミネート

ドイツ未来賞では、全24件のプロジェクトのうち、3件がノミネートされました。ノミネートされるプロジェクトと受賞プロジェクトは科学分野と産業界の独立した専門家で構成される審査委員会により、選定されます。
ドイツではドイツ未来賞(Deutscher Zukunftspreis)にノミネートされること自体がテクノロジーとイノベーションに対して最高の評価を得た証であるとされています。インフィニオンの高周波レーダー チップ担当チームはノミネートされた3チームのうちの1つです。

自動車用レーダー技術

自動車の安全性は年々向上しており、今後はレーダー技術が飛躍的に高まるでしょう。この数十年だけを見ても、道路交通の死傷事故数が大幅に減少しました。減少傾向の発端となったのはABS (1978年)、運転席と助手席のエアバッグ (1980年)、サイド エアバッグ (1996年) などのパッシブ セーフティ システムの登場でした。現在ではアクティブ セーフティ システムによって安全性はさらに向上しています。アクティブ セーフティ システムとは運転手に警告したり積極的に運転に介入したりすることにより、衝突の回避やその影響の最小化を実現するシステムで、例として、歩行車検知、距離警告、死角検知などが挙げられます。こうしたアクティブ セーフティ システムの多くでは非常に高い周波数帯の電波を送受信するチップに収められたレーダー技術が使われています。大半のカメラベースの運転支援システムと異なり、レーダーはどのような状況においても確実に機能します。降雪、霧、豪雨、逆光などの視界が悪い条件でも問題ありません。

運転支援システムではカメラとレーダーがシステムの未来を担っています。センサ融合が複雑なため、レーダーと画像の信号は組み合わせることが多くなります。そうすることで、実質的にすべての重要な運転状況をカバーすることができます。

安全機能の普及

1998年、メルセデスベンツはSクラスに初の距離レーダー システムを実装しました。当時、それに必要な高周波部品の製造には非常に大きなコストがかかりました。しかも、半導体に必要な原材料は高価で、加工が困難でした。つまり、レーダー技術は当初、高級車のみに搭載されていたということです。インフィニオンは当時からアクティブ セーフティを高めるこの技術の可能性を確信しており、その時の技術的課題を克服する新しいソリューションの研究に数年間を費やしました。やがて、シリコン ゲルマニウム (SiGe) ベースのセンサーの製造と新しいeWLBパッケージ技術の採用という、2つのイノベーションがブレークスルーをもたらします。こうした革新的な製造プロセスにより、新しいレーダー システムはすべての人の手に届く価格になりました。それまで高級車のみに搭載されていたテクノロジーがすべてのクラスの車両におけるアクティブ衝突回避機能に使われるようになったのです。一方、緊急ブレーキ アシスト システムは小型車でも安価なオプションとして提供されており、通常はメタリック仕上げよりも低コストで済みます。

シンプルでお手ごろ価格

レーダーは高周波電波の発振器から送信されるミリ波が動作のベースとなっています。77ギガヘルツ (Ghz) のレーダー技術では1秒間に770億回の発振を行います。これはモバイル通信で使われている最も高い周波数よりもさらに高い発振周波数です。2009年まではこれほど高い周波数を実現できる半導体はガリウムひ素 (GaAs) をベースとしたものに限られていました。しかし、GaAsチップの製造プロセスはシリコンベースのチップよりも成熟度が低いため、コストが高くなってしまいます。集積度が低い、つまりGaAsチップ表面に載せられる機能が少ない点も不利でした。2009年、インフィニオンは長年の研究開発が実り、半導体製造で一般的に使用されるシリコンとシリコン ゲルマニウム (SiGe) をベースとするこの周波数帯域の高集積回路を開発した初の企業になりました。その結果、メモリ、ロジック部品、マイクロプロセッサ部品の大量生産と同種の標準的な生産手法を適用することが可能になりました。さらに、インフィニオンのチームは従来8つのGaAsチップが必要だった各種レーダー モジュール機能を最大2つのSiGeコンポーネントに詰め込むことに成功しました。この革新的な技術的飛躍が大量生産への扉を開けたのです。

コンパクトなeWLBハウジング

次の決定的なブレークスルーはモバイル通信分野のテクノロジー、すなわちeWLB (埋め込みウェハ レベルBGA) を自動車レーダーに転用するというアイデアでした。当初、業界の専門家はeWLB技術が車載セクターの高い信頼性要件を満たせるかどうか確信を持てずにいました。しかし、インフィニオンのチームは希望を持ち続け、ドイツ連邦教育研究省からの資金をもとに研究活動を継続しました。そしてついに、顧客であるボッシュとの緊密な連携により、ソリューションを見出したのです。現在、インフィニオンはチップをむきだしの状態ではなく堅牢なパッケージに封止して出荷しています。お客様にとってのメリットは2つあります。1つめは高周波数帯域における要件を満たす特性が高い点です。2つめは標準的な低コストの生産手法であるため、さらなる加工に使えるという点です。つまり、総コストを最小限に抑えつつ最高の性能を実現できるのです。

ドイツで開発、製造

レーダー システムに使用するSiGeとeWLBの技術開発をさらに進めた結果、インフィニオンは米国とアジアにおいて競合企業に対して2、3年のリードを得ることに成功しました。この技術の研究開発が行われたのはミュンヘン、レーゲンスブルク、リンツ、ドレスデンでしたが、製造自体はドイツ全土で行われています。チップ製造からパッケージング プロセスまでの全工程を網羅しているのはインフィニオンのレーゲンスブルクとドレスデンの工場です。この2つの工場では自動車のセーフティ システムに必要な品質を確保し、革新的な製造プロセスによってコストを最小限に抑えています。

SiGe、eWLBという2つの技術により、レーダー システムが高級車セグメントから大衆車セグメントにまで広がりました。需要も国を問わず伸びており、77GHz帯レーダー システムの市場は2009年の約50万基から2015年の約700万基に急増しました。市場アナリストによると、2020年にはシステムの需要が1,900万基に達すると予想されています。

レーダー システムは自動車の安全性と効率を高めます。運転支援システムの次のステップはレーダー システムが重要な役割を担っている自動運転ソリューションを展開することです。2015年1月、Audi A7がサンフランシスコ-ラスベガス間を実質的に運転手の介入なしで完走しました。すでに150台のGoogle自動運転車が道路を走行しており、実世界の経験を積んでいます。そして、そのレーダー技術を開発したのはドイツなのです。